1.はじめに
- 避雷針はオイルランプ時代の産物で、積極的に雷を招こうとしている
- その避雷針を使用した場合、呼び込んだ雷電流による大きな副作用がある
- 天候不順や平均気温の上昇で雷日数は増加している
- 我々の生活は雷電流に弱い電子機器に依存する割合が高くなっている
- 社会が複雑化し、安定稼働の重要性が高まっている
避雷針は、エジソン生誕の100年近く前に発明された
避雷針は、今から270年ほど前に発明された非常に歴史ある製品である。避雷針を発明したベンジャミン・フランクリン(1706-1790)は、米国の建国にも関わった政治家であるが、当時、各国で始まった電気の研究もする中で、雷が電気現象であることを確認した発明家でもあった。トーマス・エジソン(1847-1931)が生まれる約100年も前のことで、オイルランプの時代のことである。
時代背景を説明すると、エジソン誕生の6年後には黒船が日本に来ている。米国が開港を要求してきた目的は、鯨油を取るための捕鯨船に日本で燃料、真水の補給をするためとされている。鯨油は、オイルランプのために必要であった。ちなみにこのころの日本では、菜種油の行灯が夜の明かりに使用されていた。
電気が使われるようになったのは、トーマス・エジソンが33歳になって設立したエジソン電気照明会社(1880年創立)以降の事であるから、電気が使われる130年以上も前のことであった。電気製品が使用されていなければ、雷電流の影響もさほど大きくはなかった時代であった。
「避雷針」という日本語名称
「避雷針」で知られるこの発明であるが、日本語では少し大げさな呼び方で、マクロにみると、例えば教会の屋根に取付けると教会の周囲にいる人に雷撃が直撃するよりは、教会の屋根に落雷し、周囲の人には落ち難くなり、周囲の人たちにとっては雷を避ける効果がある「避雷針」となるが、避雷針自体は雷を避けているのではなく、そこに雷を集めるもので、むしろ雷を被る「被雷針」というべきものである。英語では、単にLightning rodあるいは発明したベンジャミン・フランクリン の名前を取って Franklin Rod. あるいは規格などでは、Air termination System と呼ばれている。すなわち、「避雷」という「機能」、「針」という「形状」についての概念は原文には無く、原文に無い概念を日本語にした場合、それは誤訳と言われても仕方ないものである。
落雷を受けるだけでは解決にならない
その後、エジソンによる電気も単に照明だけでなく利用範囲も広がり、今や動力源としての電気や情報のネットワークの重要性は言うまでもない。社会システムの安定を担っているのは電気設備である。一般のオフィスビルでも入退室の管理から、エレベータでオフィスに行き、そこでの快適な空調、照明、館内放送、仕事にもPCなど電気なしでの生活は考えられない。
さて、避雷設備は、建築基準法により高さ20m以上の建築物に義務付けられている。しかし、これは建築物を保護するためのものであり、建物内部の電気設備を保護するものではない。電気設備は雷電流のような過激な電流とは相性が悪く、雷電流を積極的に受け入れるオイルランプ時代の産物を未だに何の疑問も無く受け入れることこそ問題なのである。
落雷で受けた被害の例
ある高齢者施設であるが、2階建てで1階は共用のスペース、お風呂場、調理場、2階は居室で、食事は一人分のトレイをワゴンに収納し、複数人数分を一度にエレバータで2階に運びは配膳している。2階建てであるから高さは20m以下で、建築基準法上は避雷設備の取り付け義務はなく、実際に何の対策もしていなかった。このエレベータ塔に落雷し、火災は免れたものの、エレベータの修理は1週間を要した。この間、一日3度の食事は、階段を利用して一人分ずつ運ばねばならず、それでなくても人手不足であるのに、たった1/2階の垂直移動ができないだけで大きな影響を受けた。また、入浴もエレベータで1回に降りていくのだが、エレベータが使用できなければ車いすを二人で支えて階段を下りるのも危険で、エレバータの修理完了を待たねばならなかった。もし、電気が止まったらとBCPの観点から自分の身の回りの状況を想定してみることは大切である。
また、電気設備とは無縁の歴史的建築物でも従来型の避雷針を付けていたが為に被害にあったケースもある。ある重要文化財の三重塔は、高さが24mのため避雷針を取付けた。重要文化財ということで火災報知機も付けた。そこに落雷があり、当然、避雷針へ落雷し雷電流を接地へと導いたが、強力な雷電流で燃えだしたのは火災報知機。この重要文化財はボヤで済んだが笑えぬ副作用である。建物の保護目的で何の疑いも無しに、270年前の避雷針が使用され続けている。
一度、法律で取り付けを規定されると取り付けることだけが形骸化して受け継がれるが、これでよいのであろうか?最近は、千葉県でもトロピカルフルーツが栽培されているそうである。また、以前は「ゲリラ豪雨」と呼ばれていたが、今では「ゲリラ雷雨」とも呼ばれる今までに無かった急激な天気の変化が見られるようになっている。このような変化を見据えた対策が必要ではないだろうか?