2.落雷への挑戦
世界では、落雷事故を克服する挑戦が果敢に行われている。
日本では270年前に発明された避雷針だけに凝り固まった考えで良いのであろうか?
NASAで開発されたDAS
地面の電荷を保護したい建物の上空で放出する仕組み
落雷被害を低減するには、「避雷針」のように雷を落とすのではなく、落とさない方向でと考えるのは自然な事である。落雷を特定の場所に誘導する試みは、現在もロケット、レーザ光などを用いて行われているが、学術的な実験であり実用化には課題が多い。
各国の挑戦を見てみよう。
米国NASAがアポロ計画でのサターン・ロケットを発射台へ直立させている時の高さは110mを超え、発射基地のある米国フロリダの夏場では、落雷によりしばしば発射が順延されていた。そこで、発射のスケジュール変更を防ぐため、落雷防止が研究されることになった。月に行くために地球上での落雷被害を解決することが必要であったのである。
解決策として生み出されたのが、DAS(Dissipation Array System)である。原理的には地面の電荷を保護したい建物の上空で放出し、そこと雷雲の間で放電すれば建物自体には放電が及ばないとする考えである。
日本での導入期間は約40年間
アポロ計画の終了と共にその研究員であった Roy Carpenter がNASAを退職してLEC(Lightning Eliminators & Consultants)という会社を設立し、DASの販売を開始した。
アポロ計画で使用された実績の影響力は大きく、NASAを始めとし全米で広く使用されていたとのことである。日本では、某大メーカが販売店となり、自社のシステムとセットで数百台が販売された。ただ、日本には冬季雷という世界でも稀な雷があるために北国ではトラブルが発生。また、大地の電荷を集めるために側面に穴の開いた銅パイプを地中に埋め、ここに大量の岩塩を毎年補給していたが、近年は環境意識の高まりを受け、土壌汚染などの嫌疑をかけられた。前述の日本メーカも今では国内の販売活動から撤退し、東南アジアでのみ継続されている。
雨風の中、プラス電荷が真っすぐに上昇する?
このDASであるが、雷雨という雨風の中で地面からのプラス電荷がそのまま空中を真っすぐに上昇するというのは考え難いことである。DASシステムは、空中で放電するための針が多数配列された針山のような構造か、有刺鉄線のように針が一列に並んだ線を屋根の淵に取付けたりしているが、これは今や歴史的な産物で、この10年で見れば新規に取付けられたものはほとんどない。次の3点の写真は、弊社のPDCEに交換する工事の際に撮影された鉄塔と柱に取付けられた放電針である。これは地上からのお迎え放電*を大量に放出することになるので、この針の先端への落雷痕は多数見られる。
【お迎え放電】
雲の底から地面に向かって出ている「先行放電(ステップトリーダー)」を引き寄せるために避雷針から出す放電のこと。雷は一方的に地面に向かって落ちることはなく、地面側から引き寄せるもの(放電)があって落ちる。避雷針に雷が落ちやすいのは、避雷針の先から放電しているためである。
製品の説明では、この針の先から地面からのプラス電荷が飛び出すとのことだが、飛び出したところで、強い風雨の中、建物の上空にまでの昇り、それが保護すべき建物の上にとどまるなどと都合の良いようになるのかは大きな疑問である。これはいわば、単なる通常避雷針の集合体であり、お迎え放電の出どころが多い分、落雷の捕捉率は向上するであろうが、それでは落雷を受け易くなるということであり落雷を防ぐことにはならない。
かのNASAが、そのような初歩的な誤りをするハズもないと思われるが、落雷についての奥の深さを物語っている。
DASの発明者も、欧州での販売は断念
落雷を抑制すると謳う装置には、上空から電荷を集めるといった説明が多い。それは机上の理論であり、想像に欠けているのが現場での強い雨風の状況である。電荷は電荷単独で存在するのではなく、雨粒や空気中で大きさも質量もあるエアロゾルに帯電したもので、周囲の状況に影響を受け、叩きつける大雨の中を電荷が勝手に動きまわる説明は納得しがたいモノがある。半導体の内部のホールとは訳が違う。
次の写真は、DASの発明者であるRoy Carpenter氏とPDCEの発明者Angel Rodriguez氏がパリで会った時の写真である。Angel氏によるとRoy Carpenter氏はDASシステムを欧州に広めようとフランスに来たが、欧州でのPDCEを始めとする落雷対策の多さに進出を断念したとのことである。
欧州での動き
「お迎え放電」を早い段階から放出するESE
一方、欧州に於いても避雷針の研究は盛んで、地面の電荷を表面積の大きな球体に蓄えておいてお迎え放電を一気に流すことで落雷の捕捉率を高めたESE(Early Streamer Emission)と呼ばれる避雷針がある。これは名称の如く「お迎え放電」を早い段階から放出することで、捕捉率を高めようという狙いである。通常の避雷針に比べると、より高い位置に設置したのと同じ効果を発揮し、設置位置が高ければ地面での保護範囲も広くなるということで、欧州では広く使用されている。
その他、空気を電離して雷電流を流れ易くするために放射性同位元素を用いたものなども開発されたが、落雷を受ける度に放射性物質が空気中で飛散するため使用禁止になっている。
落雷の多いアンドラ公国で、PDCEが開発された
ピレネー山脈の麓にあるアンドラ公国では、INT社のAngel Rodrigues氏も落雷被害を低減したいとの思いで各種の避雷針を開発し、これをPDCEとの名称で販売していた。半球状の電極を上下に対向させた新型の避雷であり、これを世界に紹介した。
弊社もINT社の販売店の一つとしてPDCEの販売を2010年より開始する。PDCE (Pararayos Desionized Charge Electro Statica) 。このスペイン語を直訳すると静電気(Electro-Statica)の電荷(Charge)をイオンを消す(Desionized) Pararayos(避雷針)という事で、「消イオン型避雷針」と日本語名称を付けたが、この名称自体が怪しいので使うのは止め、単に「落雷抑制型避雷針」と呼ぶことにした。
次は、この「落雷抑制型避雷針」がどのように発展してきたかについて、記録を残していきたいと思う。