8.製品の概要
構造の概要
PDCEは2つの金属製の半球(直径約20cm)が絶縁物を介して電気的には分離し絶縁された状態で、機械的には強固に接合されている。半球の内部は、中央部分が放電用の突起として存在し、その優位はくりぬかれた形状をしている。上下の電極で放電用の突起が中央部分で対向していて、もし、上部電極に落雷しても、PDCE内部の放電用突起の間で放電する事は確認されている。また、半球の下部電極の外側には支持用の支持棒が付けられている。この支持棒の反対側の先には取り付けプレートと呼ばれる円盤状の板が付き、フランジのついた支持管の上で取り付プレートとフランジをボルトで結合することで支持管に取り付けることができる。避雷設備の受雷部は、この下部電極である。
雷雲の高度が低い日本海側で、標高の高い山頂などに建てたPDCEは、雷雲の底部にスッポリと入ってしまう可能性がある。この場合には、地面と雷雲の間での放電の中継ぎになるので抑制効果の前にPDCE自体に落雷してしまう。 Magnum の場合は、内部が垂直方向でも対称形で中央部にある放電用の突起部分の間の隔離距離が上下電極の側面管の距離より短いため内部側面で放電する可能性は低いが、上下電極間の外側で放電することはたまにある。上下電極は、上下電極に円周状に彫られた溝と円筒形の支持物でしっかりと固定されている。
Juniorの場合には雨カバーと一体になった構造物で上下電極も固定する構造で上下電極側面の距離を大きくするためにドーナツ状の絶縁円板があり側面での放電を防いでいる。
Magnum と Junior 共に上下電極の間に見えるのは、内部に雨が入らないようにしている雨カバーであり、上下電極を完全に絶縁遮断しているものではない。上下電極の間で放電が発生し、内部の気圧が急激に高まってもその圧力を逃がす構造であるため、雨が内部に入らないようにするカバーが必要である。
この構造に対し、従来型の古典的避雷針を支持するか方々からは、受雷部に絶縁体があり、これはIEC規格にそぐわないと指摘されることがあった。この御意見についての弊社の見解は、
1) 受雷部は下側電極であり、その上に絶縁体と金属電極を載せている。通常避雷針もその周囲や上部は、大気という絶縁物で囲まれていて受雷部と絶縁物という関係では、通常避雷針もPDCEも同じである。
また、受雷部の形状が半円球で「突針」とは言えないとのご指摘については、
1) JIS規格の原文であるIEC規格では、避雷設備の先端部分は、単純に Air Termination System と呼ばれているだけで、その形状が「針」のような尖ったモノでなければならないとの規定はない。JISの英語版でも、受雷部システムは、Air Termination System と呼ばれ、日本語に於いては「突針」と和訳されているが、英文では単に rod とされていて、「針」だの「突」だのと言った形状についての概念はない。英文に含まれていない概念を和訳に際し、勝手に日本語に加えたらそれは「誤訳」というもので、英文を和訳する場合に勝手な概念を付け加えてはならない。
2) これは、恐らく、明治の初期に洋物の文化が日本にもたらされた頃の「避雷針」という誤訳のイメージが強いが故の御意見と思われる。今でも子の半球体の丸っぽいものが「突針」なのかという問いは寄せられる事があるが、そもそも「針」であるとか「尖ったモノ」という先入観が誤りなのである。
避雷球(PDCE)の種類
PDCE-Magnum | PDCE- Magnumの基本型 |
PDCE-Magnum Marine | 振動対策を施したモデル |
PDCE-Magnum EV | 歴史的な建築物との整合のために金属光沢なし |
PDCE-Junior | PDCE- Juniorの基本モデル |
PDCE-Junior Marine | 振動対策を施したモデル |
PDCE-Junior EV | 歴史的な建築物との整合のために金属光沢なし |
PDCE-Baby | PDCE-Babyの基本モデル |
PDCE-Baby Marine | Babyに振動対策を施したモデル |
PDCE-Baby EV | 歴史的な建築物との整合のために金属光沢なし |
PDCE-HT300 | 高温対策で300℃の排気ガス対応 |
PDCE-HT500 | 高温対策で500℃の排気ガス対応 |
PDCE-スーパー316L (A) | Juniorの形状で材質がSUS 316L |
PDCE-スーパー316L (B) | Juniorの形状で材質がSUS 316L |
ここまでが2024年 6月現在の販売中の避雷球PDCE の機種であるが、これらに加え次のような機種もある。
水平型PDCE
NHKのTV番組『クローズアップ現代+』で、2016年12月 5日、高層ビルの屋上壁面への落雷により、屋上のコンクリートが地面に落下する事故が多発していると報道された。実際、弊社にもそのような事故が起きると解決策を求める依頼がよせられる。この事故が発生する理由は単純で、屋上の周囲には「棟上導体」と呼ばれる接地線が張り巡らされているのだが、これが建物の内側に設置されている。これは、「回転球体法」と呼ばれる考え方で、建物の淵に落雷が到達する際に「棟上導体」で雷撃を吸収してしまおうという考えであるが、それであれば、建物の外面に配置しなければならない「棟上導体」であるが、建物の外面に配置すると設置から時間が経過し、経年劣化でそれが地面に落下する危険あるので、屋上の内側にオフセットしても良いことになっている。そのため、雷撃は「棟上導体」に届くことなく建物の外壁との間で放電が生じ外壁を壊している。
この外壁が落下する事故は、日本中で発生しているが、幸いにも死傷者はでていないが、高さ100mから落下するコンクリート片が人体に当たれば軽傷で済むとは考え難い。建設する側としては、建築基準法に定められたように施工し、たまたま自然災害に遭っただけであり、既に施主に引き渡した施主の資産であり、建設をした自自分達には関係ないとのことで、これを未然に防ぐことには積極的ではない。
弊社は、これを防ぐ手立てとして「水平型PDCEとして」何点か特許取得している。 最初のものはPDCEの断面をそのまま型押しで長尺にすることを考案したが、これは材料的にはPDCEを水平に複数個並べているのと同じことなのでコストの問題があり、実用化には至らず、この構造をナントカ低廉にできないものかを検討した結果、パイプとその中に丸棒をおき、PDCEの上部電極を外側のパイプ、下部電極を内部の丸棒に置き替え、絶縁物でこれらを機械的には固定しつつ電気的には絶縁した状態で内部の丸棒を接地することで、放電し難くなることを自社の放電設備で確認し、さらにフランスのPau大学の付属施設でフランス規格(NF-C17)による放電試験でその性能を確認した。この断面は、単なる同軸構造で、これは同時ケーブルでも内部導体を接地し、外部導体を絶縁しているのと同じ構造なので、もしや、同軸ケーブルがつかえるのでは? と淡い期待をしたが、その後の試験で、重要なのは外部導体と内部導体の隔離距離でケーブルのような外形が細いものではその効果は得られず、思った通りの結果であった。この水平型は、建物の屋上や、即撃雷対策としてパイプを垂直にしてビルの角、あるいは水平にして60m以上の外壁に取付けるが、窓ガラスの清掃をするゴンドラに干渉しない形で高層建物の壁面に配置する。これにより側撃雷を抑制するのに有効と推察されるが、建物に取付ける部分のノウハウが弊社には無く、建材メーカとの提携を模索している。
避雷球PDCE(避雷球)
水平型PDCEについては解説したが、この水平型に垂直軸を想定し、その軸を中心に水平に回転させると球形になる。 これが「避雷球」で内部の球(下部電極に相当)を更に外側から内部を覆う球(上部電極に相当)の二重殻構造になっている。
これは、Pau大学での試験では、放電試験設備での最高電圧を加えても放電しなかった実績があり、お迎え放電を出さないことで落雷を抑制する形のものとしては、究極の最終形のものと考えている。 避雷針の形状の進歩としては、針から上下電極構造、そして避雷球へと進化している。
この避雷球の応用としては、風力発電のブレードの翼端にこれを取付けることを想定し、ブレードの長さ110mが20RPMで回転するときの翼端における加速度で50Gを想定し、遠心力載荷試験を行い、これに耐えることを確認している。
これは、日本、米国、中国、欧州でも特許取得している。