11.落雷を誘導することの不都合
POINT
現在の状況は、270年前と環境が全く異なる。ワザワザ、建物に雷電流を受けても建物自体や周囲の通行人は守れても、建物内部の電気製品、ネットワークには何の助けにもならない。
情報や電力のネットワーク化が進むに従い、従来の避雷針は、次の様な問題を抱えている。
- 落雷を必ずしも100%の補捉率でとらえることはできなく、避雷針の近辺への落雷を誘発していることがある
- 避雷針に誘導できても、雷電流をどこに逃がすかが問題となる。引下げ導線で、受雷部から地表付近に下してきた雷電流を確実に地中深くに流すには、雷電流を流してもパンクしないような特別な絶縁ケーブルを用い地面を100mほどボーリングして絶縁ケーブルで雷電流を地中深くまで運び、そこで放流する。この方法は深埋接地と呼ばれ、通常の接地では地表付近から雷電流が同心円状に拡散するのを防いで確実に雷電流を地中深くに伝搬することが可能であるが、難点は費用で、受雷部からして絶縁碍子の上に載せ、ボーリングで用意された穴に特殊な絶縁ケーブルを用いて地中100m以上も通すとなるとかなりの工事となりその費用も大きい。
- 雷電流を地表付近で放流すれば近辺の最終需要家に雷電流が流れ、家電製品を破壊するなどの悪影響を及ぼす。TV局の放送用のタワーなどで落雷に遭っても障害を発生しない例も散見するが、接地工事に億円単位の費用をかけている立派な接地がされている場合であり、通常レベルの接地工事では、雷雨で雨に濡れた地面の方がインピーダンスは低く、雷電流は地面を流れてしまうことが多い。
右の写真は、高さ30m の独立避雷針を建てた柱で、そこに落雷した結果、基礎のコンクリートの一部が壊れただけでなく、基礎の脇の土砂がショベルで掘られたように穴が開き、その土砂が前の道路に投げ出される事故も発生している。一部が地面で土砂を跳ばすエネルギーに代わった後も、雷電流は地面から屋内施設に入り込んで電気設備の一部を破壊している。
- 270年前であればオイルランプの時代であったので落雷を誘導し、雷電流が何処に流れても何の副作用も無かった。また、ビルの屋上の避雷設備に落雷した場合、最近のビルには次の様な多種多様の配線がビルの内部にビッシリと張られている。
- ビル管理用
- セキュリティ 入退室管理
- セキュリティ監視カメラ
- セキュリティ 火災/検出と報知
- 電気 照明用
- 電気 電気製品用
- 電気 エレベータ用
- 電気 水道ポンプ用
- 情報配線【LAN】
- 空調管理
これらの総延長は、1000人規模のビルであれば100kmを軽く越える。そして、そのようなビルは構造体接地でビルの骨組みの鉄骨をそのまま引き下げ導線として利用する。この構造体に雷電流が流れれば、周囲に配置された電線にも誘導電流が流れ、そのシステムに副作用を生じる。あるいは、鉄塔などで機器類は保護設備で守れたとしても、雷電流が地電位を上昇させて周囲の民家の家電製品を破壊することもよくある。建築基準法に従った雷保護がキチンとされていて、周囲の通行人や建物自体は本来の目的のように保護できても、エレベータの制御装置や内部のネットワーク等に被害を及ぼしたケースは多々ある。
今後、太陽光発電パネル、大容量電池、電気自動車の車載電池まで利用するなど、電力設備に用いられ、機器の種類が増えてきた場合、損害が大きくなることが心配されている。雷電流は流さない事、すなわち、落雷は無理に受けることなく済ますことができれば一番良いのである。