12. 規格について
- 日本には外部雷対策製品の規格への適合審査を行う社会制度がない
- 通常の古典的避雷針も、弊社の避雷球も、第三者認証は受けていない
- 受雷部だけの検定では「避雷設備」の一部であり、避雷設備を構成する引き下げ導線、アースなど現場施工のモノと一体に適合審査することは困難であり、受雷部だけの審査だけでは意味がない
標準化について
男性であれば一度は迷ったことがあるかと思われるカミソリの替え刃であるが、製造メーカにより取付方法が異なり、異なるメーカの製品を間違って購入すると全く役に立たない。しかし、これは生命の安全に影響するようなものではなく、例え統一モデルを作っても双方の既存の利用者にとって手持ちのモノが使用できなくなるマイナスだけであるから、統一モデルに標準化されることは、特別な事情でもなければ困難であろう。
対極にあるのが2千年ほど前にイタリアのベスビオス火山の噴火で埋まってしまったポンペイ遺跡であるが、馬車の轍(わだち)がクッキリと馬車の専用道に残っているそうで、見事なのは車輪の幅が決められていた証であり、標準化が2千年近くも前から行われていた。車輪の幅など種類がいくつあってもいいのでは? とはいかないのが、馬車を引く馬はいつでも自由に排泄をする。その「落とし物」が道路に散乱しないよう、馬車の通り道は地面から少し掘り下げられた専用道があり、「落とし物」は常に一段低い専用道に留まる衛生的な配慮がされていた。地面より低い馬車専用道を人が横断するために馬車専用道の所々に飛び石が置いてあり、飛び石の間を両車輪が通り抜ける為、車輪の幅が統一されていた。消費者側から言えば、どの製品でも間違いなく安全に使えるのが好ましく、利便性、安全性が担保されているというのは、標準化が進んでいる状態と言える。
しかしながら、例えば素材である鉄やアルミなどの強度試験を各製造者が自社の基準においてのみ試験していたら、あるいは自動車の衝突安全基準なども自社で決めた試験方法、評価方法でのみ試験していたら、利用者の生命にかかわる事故が起きることもあり得る。そう言う場合が、お国の出番で、この標準をキチンと文書で残し国としての拘束力を課しているのが規格である。
自由貿易と各国の規格
工業化の進展に伴い、国として標準を決めた規格は、自由貿易の下で、輸出したい国と輸入したくない国の間での攻防の材料に使用された。自国の工業規格に合わないから自由貿易の対象にならないという側と関税以外の自由貿易の障壁に工業規格を持ち出すなという側との折り合いで、それなら工業規格を統一しようという中で、日本もそれまで独自に規定していた電気関連のJIS規格を国際規格のIEC規格に統一しようという事となり、JIS規格の内容がIEC規格の内容に合わせられたのが2003年である。日本の経済が非常に好調であった1980年代、各国間の貿易の不均衡を是正し、自由貿易を促進しようとするための貿易協定の中で、各国独自の工業規格が非関税障壁とならないようにとのことで、工業規格は、国際化が進められ、日本のJIS規格も独自のものをとり下げ、電気の場合にはIEC規格が基になった。
規格を決めるタイミング
国が決める規格となると、頻繁に改訂ばかり繰り返す事できなく、技術の進歩と規格化のタイミングが重要ようになり、例えば、無線LANでは、米国規格ANSIで規定すると改訂が5年に一度になってしまうので、技術の進歩に追いつけない、かといって野放しにするとメーカ間の互換性も保てなくなるので、これを国家規格と別団体のIEEEの標準として、互換性を保ちながら急速の進歩を遂げた例もある。技術の進歩と規格という枠を定めるのは技術が成熟した後では遅いし、早すぎれば技術の進歩を阻害することになるが、規格が技術の進歩を阻害してならないのである。先発組が自己の既得権を守るために、後発の新しい技術に対し規格を振りかざして排除しようとするのは世のためにはならないのである。
避雷設備のための規格であるからと言って、避雷設備だけが単独に存在している訳ではなく、建物には電気が使われているので、電気の保安用の接地も必ず存在するし、接地はその他、通信用もあり例えば、電気の配電設備は日本と諸外国では大きく異なる。これは技術というより、文化的な違いをも含み、世界中の規格を統一するというのは非常に難しいことである。
規格と規格への適合審査
ある製品が規格に適合しているか否かについて、人の命に係わる安全性が非常に重要な電界配線設備に使われる部品、例えばACアダプターなどは商用電源を使うのでPSEマークなど、適合審査が行われ、それが表示されている事で消費者の安全が守られている。ところが、外部雷対策品について言えば、(受雷部、引下げ導線、アース)の3点から構成されるが、このうち、引き下げ導線、ア-スは、工事現場で製作されるもので、受雷部のみが工場で製作されたものであるが、これもカサギ、パラペット、手すりなどの建築資材を使用することも可能であるので、(受雷部、引下げ導線、アース)の3点をまとめて適合審査することなど不可能であり、受雷部として、材料の種類とその厚さが規格に適合しているか否かは、第三者が認定するのは困難で、製造メーカの責任でこれが守られている。弊社製品についても、これがJIS適合していることを公に認定された書面を要求されることがあるが、その前に270年の歴史ある通常避雷針でさえ、その仕様が規格に適合していることを第三者に公的に認定されたものなど一本もないのである。ましてや、その性能についても落雷をどれくらい補足できるかなど何の性能保証もない。
これらについて外国製の製品が
- IEC規格とJIS規格は類似のものである
- IEC規格を外国の第三者認証機関で取得した
- 故に、日本のJIS規格にも適合している
と飛躍した宣伝を散見するが、これは全くの誤りである。日本国の規格はあくまでJIS規格であり、外国の規格を外国の第三者機関で認証を受けても、日本国内では何の意味もない。外国で取得した運転免許をひけらかすようなもので何の意味もない。
日本では接地だけでも、建物の保護用、通信設備の保護用,電気の保安関連などがそれぞれ昔の省令のまま生き残っている。ところが時代は、「統合接地」に向かっている。日本はハイテクの国であるというイメージを持っている人が多いが、ハイテク製品は旧態依然の規則に縛られない分野だけである。日本の規格が世界からは周回遅れになっているものもあり、規格、規格と規格を振り回すことが無いよう、その意味をしっかりと理解するべきである。
規格は技術ではなく、政治
規格というのは、純粋な「技術」の世界ではなく、それよりは「政治」の世界に近いものがある。国際規格への影響力を持つには、何より英語力である。今まで日本人の貧弱な英語力のために、技術的には世界をリードしていたのに規格の面で後れを取ったものは多々ある。それと日本では、規格の委員会の仕事は会社の仕事の片手間で行うが、欧米では会社や国のために専業で行う仕事として会社が援助する。専業で各国の委員と日常的な接触も保ちながら、如何に自国に有利なように規格を導くかが大事な仕事なのである。技術的な知識はもちろんのこと、交渉に十分な英語力、自国に有利な妥協点に近付ける「政治力」が求められる重要な仕事である。