13.経済性

13.経済性

POINT
  1. 落雷による被害があっても、金銭で償える損害だけであれば、保険もあるし問題の無いことが多い。しかし、生命に関すること、身体への障害が残ることなど,金銭だけでは解決し難い被害があることを忘れてはならない。
  2. 設備の損傷は損害保険でカバーできることが多くても、設備が普及するまでの間で大きな負担が生じる。

エジソンの白熱電灯の発明によるによる電気時代が到来する約130年も前に発明された避雷針。そして電気の発明からさらに140年近くが経過している現在は、過剰ともいる電気依存、都市の過密化などの背景を理解した上で、もし、日常生活に影響したらという観点で経済性を検証する。

トーマス・エジソン(1847- 1931年)
トーマス・エジソン(1847- 1931年)
避雷針を発明したベンジャミン・フランクリン(1706 - 1790年)
避雷針を発明したベンジャミン・フランクリン(1706 – 1790年)

そもそも安全対策に経済性第一を持ち込むのは適切ではない。弊社製品の選定に際しても「コスパ、コスパ」と声高に叫ぶ方もおられるが、私の心の奥ではコスパ優先を唱える方にはお引き取りを願っている。弊社製品、それほど高価なものではないのである。会社の操業体制の価値が落雷対策の費用に及ばないなら、検討などするのも無駄であろうが、落雷対策の費用など会社の操業価値に比べれば微々たるものである。

JIS規格では損害の種類を次の4種類に分類している。

1) 生命に関する損失

古典的避雷針の発明された1750年台は、日本では徳川第9代将軍の頃であるから、他人の生命や権利には無関心な時代であったのは仕方ないが、今や人の命に関わる事は最大限の努力でこれを守らねばならないという意識は一般化し、例え、相手が自然現象であったとしても大きな言い訳にはならず、最大限の努力で人命に危害が及ばないようにすることは常識になりつつある。例えば、大規模な野外のイベントには落雷対策が準備されるようになり、ゴルフ場、サッカー場などの屋外施設への普及も進んでいる。

2) 公共サービスの損失

公共サービスと言えば、電気/ガス/水道であるが、これらの安定供給のためにも落雷対策は活躍している。通信/放送は、電力の他電波送信のための高い鉄塔を伴うことが多く、落雷対策は重要である。 交通についても特に大都市圏の交通網は、異常なく運航が継続されているので駅での乗客の滞留も発生しないで済んでいるが、これが停止したら大きな駅では電車に乗ろうとする人で溢れ、警察が出動しなければならないような大混乱をきたす。このため落雷対策は重要である。自衛隊/警察/海上保安庁/消防も独自の通信網を備え、それらの設備に対する落雷対策は重要である。

3) 歴史的建築物の損失

日本には多くの歴史的建築物が多いが、それらのほとんどは木造建築で昔の建物ゆえ、耐火性能は現代の建築物に劣り、個々で使用される木材は長年かけて乾燥されているいため、火災になれば火の回りも早いものと推測される。例えば、京都の東寺の五重塔であるが、天長3年(826年)に弘法大師空海が創建したと言われている。 創建塔は天喜3年(1055年)に落雷で焼失。その後、3度の焼失(合計4回)を経て現在は寛永21年(1644年)に徳川家光が寄進したとされている。落雷から守るためとはいえ、美しいたたずまいのその周囲に避雷鉄塔など立てるのは無粋であり、これをそのままの姿で落雷し難くできないかと考案した図を示す。

五重の塔には相輪と呼ばれる金属製の装飾があるが、これは多くの場合、避雷針として地面に接地されているが、これを直接地面につなぐのではなく、一度キャパシタを通じて接地する。これは一見、接地回路にキャパシタなど入れれば直流抵抗は無限大となり、そもそも接地として機能しないとの反対意見が巻き起こる事は十分承知であるが、もし、落雷しても、キャパシタの内部を絶縁破壊して接続状態になり、雷電流はヤスヤスと数化する。それより大事なのは、地面と逆極性の、すなわち、雷雲と同じ極性に大雄伝させて、落雷を招かないようにすることが重要なのである。これであれば、大きな場所も必要とせずに、費用も最小で歴史的建築物への落雷を抑制することが可能で、日本国内はもとより米国特許も取得している。

4) 経済的な損失

直撃雷を受ければ、少なからず損傷も発生する。その費用は火災保険でもカバーされるが、問題は、復旧に時間がかかる事である。産業機械の復旧には時間を要し、その間、操業が停止する損失の方がはるかに大きい。例えば、これも実例であるが、年間50億円を出荷するある会社が落雷のために2週間に渡って操業が停止した。修理費用は約5百万円を要したが損害保険でカバーできたが、2週間の操業停止は約2億円の損害となった。また、金銭的な損害取るも従業員に多大な負荷をかけた例としては、ある高齢者施設でエレベータ塔への落雷でエレベータが約2週間にわたって利用できなくなった。高さが20メートルの建物には避雷設備は必要とされないが、これは落雷がないことを保証したものではない。落雷が発生すればエレベータも空調も損傷を受け、1階の調理室で作った食事は各人毎のトレイに、そのトレイを大きな台車に乗せて複数人分を2階の居室に運んでいたが、1~2回の垂直移動ができなくなると一人分ずつ運ばねばならない。それでなくても人手不足の折、50人分を一人前毎に運び、その食器の後片付けもあると、一日3食で300回も階段を上り下りしなければならなくなった。たった1階と2階の垂直移動でさえこれだけ大きな負担となる。

 避雷球(PDCE)を用いて、なるべく落雷を受け難くするのに擁する費用は、以上の損失から比べれば、それほど大きな負担にはならない。安全策を講じる費用は場、生産設備の改良と比べれば、後ろ向きではあリ。「コスパ」を持ち出したくなる気持ちは理解するが、そもそも、生産設備でのコスパと比べるべきものではない。