18. 問題点

 PDCEには、日本に於いてだけでも既に14年以上、約4,000台の使用実績がある( 2024年6月末現在の数字)。 日本でも利用者の間では効果が認められているものの、日本の建築基準法では従来の落雷を誘導して落とすタイプのものを前提としている。一方、「避雷針」という言葉も既に「死語」となり、「避雷設備」の一部の「受雷部」として扱われている。PDCEも、建築基準法の下では単なる「受雷部」として雷を受ける部分として扱われ、有効範囲も建築基準法の制限の中でご利用いただいている。すなわち、落雷をなるべく呼び込まない機能は、単なる「隠し機能」であり、これは表には出さずに昔ながらの落雷を受ける避雷設備の受雷部としてお使いいただいている。

 避雷設備の目的である「雷撃を受けた時に安全に雷電流を地面に拡散する」という機能は当然のことながら果たしている。今までの避雷針との違いは、積極的に落雷を招くか、なるべく招かない工夫があるだけの差であり、雷撃を受ければ、その後は全く同じように地面に雷電流を安全に拡散する。

 これを拡大解釈し、「PDCEを取付けると落雷が発生しない」のように理解すると、そもそも建築基準法で避雷設備を必要としているには、落雷する前提なのであるから、「落雷を受けない」と解釈してしまうと「落雷を受けないなら使用してはならない」という事になってしまう。これは全くの誤解であり、PDCEでも落雷を受けることはある。落雷を受けることもあるので、PDCEを排除する理由はどこにもない。

 電子機器が増加し、社会インフラの安定稼働が中断しないことはより重要な要素になっている中、270年前と同じ手法でこれに対抗する事は困難である。 雷電流をなるべく呼び込まない仕組みを社会の中でより活用していただきたく、誤った理解を正し、偏った日本語翻訳も是正し、このPDCEをより活用していただきたい。 避雷設備に長年携わってきた方の中にも、従来型の避雷針と異なるものを全て十把一絡げにして「IEC規格と異なる避雷針」として、これに異議を唱える方もおられますが、誤解、無理解によることが大きい。例えば「IEC規格の避雷針」とは何の事であろう?IEC規格では、形状や構造についての規定はない。あるのは材質とその厚さの規定だけです。先端が尖った棒でなければならないとはご自身の先入観によるものとしか思えない。英語での名称は Air Termination System であり、どこにも「避雷」という機能に関した概念も「突針:というような形状に関する概念もない。外国語を日本語に翻訳する場合、その外国語に含まれていない概念を日本語にすれば、それは誤訳と呼ばれる。日本国の工業規格がいつまでも誤訳で良いのであろうか?

 全てのエンジニアは、業界の規格について歴史から理解すべきである。製品の仕様がバラバラにならないように標準化、規格で押さえることは必要な事であるが、規格自体が進歩の足かせになってはならない。技術が充分に熟した頃でないと、規格が進歩を妨げるになってしまうので企画化のタイミングは難しい。

 無線LANの進歩には目を見張るものがあるが、無線LANの規格は、米国の規格ANSIでは改訂が数年に1回で技術の進歩に追いつかない、という事で米国規格のANSIを離れ、全米技術者協会(IEEE)の規格として新しい技術が次から次に登場し、それぞれの規格の中での互換性は保ちつつ古い方式に捉われないで進歩を遂げた。これなど、米国の新しいものを創造する力の象徴のような話であるが、これと全く正反対に古い規格にしがみ付き新しいいモノを排除しようとするのは、権威を振り回すだけで少しの進歩にも貢献しない。

 日本のJIS規格は、IEC規格の翻訳が基本であるが、このIEC規格を金科玉条の如く振り回すだけでは、270年前からの既得権益を保護するだけで何ら社会的な貢献はない。

 防御の基本は、相手が泥棒であれ、強盗であれ、まずは入れないようにすることが第一で、日本の歴史の中での城作りを見ても、城の周囲に堀を巡らせ、堀を渡る唯一の橋をもイザという時にはこれを落とし、敵軍の侵入を防ぐ工夫がなされている。第一手としては、敵(雷電流)を招き入れないようにするのは基本中の基本である。