避 雷 針 か ら 避 雷 球 へ
インフラや工場、物流センター、スポーツ施設などの落雷抑制を担い15期目に突入した弊社の挑戦を、代表の松本敏男が連載いたします。
目 次 |
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1.はじめに
避雷針は、エジソン生誕の100年近く前に発明された
避雷針は、今から270年ほど前に発明された非常に歴史ある製品である。避雷針を発明したベンジャミン・フランクリン(1706-1790)は、米国の建国にも関わった政治家であるが、当時、各国で始まった電気の研究もする中で、雷が電気現象であることを確認した発明家でもあった。トーマス・エジソン(1847-1931)が生まれる約100年も前のことで、オイルランプの時代のことである。
時代背景を説明すると、エジソン誕生の6年後には黒船が日本に来ている。米国が開港を要求してきた目的は、鯨油を取るための捕鯨船に日本で燃料、真水の補給をするためとされている。鯨油は、オイルランプのために必要であった。ちなみにこのころの日本では、菜種油の行灯が夜の明かりに使用されていた。
電気が使われるようになったのは、トーマス・エジソンが33歳になって設立したエジソン電気照明会社(1880年創立)以降の事であるから、電気が使われる130年以上も前のことであった。電気製品が使用されていなければ、雷電流の影響もさほど大きくはなかった時代であった。
「避雷針」という日本語名称
「避雷針」で知られるこの発明であるが、日本語では少し大げさな呼び方で、マクロにみると、例えば教会の屋根に取付けると教会の周囲にいる人に雷撃が直撃するよりは、教会の屋根に落雷し、周囲の人には落ち難くなり、周囲の人たちにとっては雷を避ける効果がある「避雷針」となるが、避雷針自体は雷を避けているのではなく、そこに雷を集めるもので、むしろ雷を被る「被雷針」というべきものである。英語では、単にLightning rodあるいは発明したベンジャミン・フランクリン の名前を取って Franklin Rod. あるいは規格などでは、Air termination System と呼ばれている。すなわち、「避雷」という「機能」、「針」という「形状」についての概念は原文には無く、原文に無い概念を日本語にした場合、それは誤訳と言われても仕方ないものである。
落雷を受けるだけでは解決にならない
その後、エジソンによる電気も単に照明だけでなく利用範囲も広がり、今や動力源としての電気や情報のネットワークの重要性は言うまでもない。社会システムの安定を担っているのは電気設備である。一般のオフィスビルでも入退室の管理から、エレベータでオフィスに行き、そこでの快適な空調、照明、館内放送、仕事にもPCなど電気なしでの生活は考えられない。
さて、避雷設備は、建築基準法により高さ20m以上の建築物に義務付けられている。しかし、これは建築物を保護するためのものであり、建物内部の電気設備を保護するものではない。電気設備は雷電流のような過激な電流とは相性が悪く、雷電流を積極的に受け入れるオイルランプ時代の産物を未だに何の疑問も無く受け入れることこそ問題なのである。
落雷で受けた被害の例
ある高齢者施設であるが、2階建てで1階は共用のスペース、お風呂場、調理場、2階は居室で、食事は一人分のトレイをワゴンに収納し、複数人数分を一度にエレバータで2階に運びは配膳している。2階建てであるから高さは20m以下で、建築基準法上は避雷設備の取り付け義務はなく、実際に何の対策もしていなかった。このエレベータ塔に落雷し、火災は免れたものの、エレベータの修理は1週間を要した。この間、一日3度の食事は、階段を利用して一人分ずつ運ばねばならず、それでなくても人手不足であるのに、たった1/2階の垂直移動ができないだけで大きな影響を受けた。また、入浴もエレベータで1回に降りていくのだが、エレベータが使用できなければ車いすを二人で支えて階段を下りるのも危険で、エレバータの修理完了を待たねばならなかった。もし、電気が止まったらとBCPの観点から自分の身の回りの状況を想定してみることは大切である。
また、電気設備とは無縁の歴史的建築物でも従来型の避雷針を付けていたが為に被害にあったケースもある。ある重要文化財の三重塔は、高さが24mのため避雷針を取付けた。重要文化財ということで火災報知機も付けた。そこに落雷があり、当然、避雷針へ落雷し雷電流を接地へと導いたが、強力な雷電流で燃えだしたのは火災報知機。この重要文化財はボヤで済んだが笑えぬ副作用である。建物の保護目的で何の疑いも無しに、270年前の避雷針が使用され続けている。
一度、法律で取り付けを規定されると取り付けることだけが形骸化して受け継がれるが、これでよいのであろうか?最近は、千葉県でもトロピカルフルーツが栽培されているそうである。また、以前は「ゲリラ豪雨」と呼ばれていたが、今では「ゲリラ雷雨」とも呼ばれる今までに無かった急激な天気の変化が見られるようになっている。このような変化を見据えた対策が必要ではないだろうか?
-POINT-
1) 避雷針はオイルランプ時代の産物で、積極的に雷を招こうとしている
2) その避雷針を使用した場合、呼び込んだ雷電流による大きな副作用がある
3) 天候不順や平均気温の上昇で雷日数は増加している
4) 我々の生活は雷電流に弱い電子機器に依存する割合が高くなっている
5) 社会が複雑化し、安定稼働の重要性が高まっている
2.落雷への挑戦
NASAで開発されたDAS
地面の電荷を保護したい建物の上空で放出する仕組み
落雷被害を低減するには、「避雷針」のように雷を落とすのではなく、落とさない方向でと考えるのは自然な事である。落雷を特定の場所に誘導する試みは、現在もロケット、レーザ光などを用いて行われているが、学術的な実験であり実用化には課題が多い。
各国の挑戦を見てみよう。
米国NASAがアポロ計画でのサターン・ロケットを発射台へ直立させている時の高さは110mを超え、発射基地のある米国フロリダの夏場では、落雷によりしばしば発射が順延されていた。そこで、発射のスケジュール変更を防ぐため、落雷防止が研究されることになった。月に行くために地球上での落雷被害を解決することが必要であったのである。
解決策として生み出されたのが、DAS(Dissipation Array System)である。原理的には地面の電荷を保護したい建物の上空で放出し、そこと雷雲の間で放電すれば建物自体には放電が及ばないとする考えである。
日本での導入期間は約40年間
アポロ計画の終了と共にその研究員であった Roy Carpenter がNASAを退職してLEC(Lightning Eliminators & Consultants)という会社を設立し、DASの販売を開始した。
アポロ計画で使用された実績の影響力は大きく、NASAを始めとし全米で広く使用されていたとのことである。日本では、某大メーカが販売店となり、自社のシステムとセットで数百台が販売された。ただ、日本には冬季雷という世界でも稀な雷があるために北国ではトラブルが発生。また、大地の電荷を集めるために側面に穴の開いた銅パイプを地中に埋め、ここに大量の岩塩を毎年補給していたが、近年は環境意識の高まりを受け、土壌汚染などの嫌疑をかけられた。前述の日本メーカも今では国内の販売活動から撤退し、東南アジアでのみ継続されている。
雨風の中、プラス電荷が真っすぐに上昇する?
このDASであるが、雷雨という雨風の中で地面からのプラス電荷がそのまま空中を真っすぐに上昇するというのは考え難いことである。DASシステムは、空中で放電するための針が多数配列された針山のような構造か、有刺鉄線のように針が一列に並んだ線を屋根の淵に取付けたりしているが、これは今や歴史的な産物で、この10年で見れば新規に取付けられたものはほとんどない。次の3点の写真は、弊社のPDCEに交換する工事の際に撮影された鉄塔と柱に取付けられた放電針である。これは地上からのお迎え放電*を大量に放出することになるので、この針の先端への落雷痕は多数見られる。
*【お迎え放電】
雲の底から地面に向かって出ている「先行放電(ステップトリーダー)」を引き寄せるために避雷針から出す放電のこと。雷は一方的に地面に向かって落ちることはなく、地面側から引き寄せるもの(放電)があって落ちる。避雷針に雷が落ちやすいのは、避雷針の先から放電しているためである。
製品の説明では、この針の先から地面からのプラス電荷が飛び出すとのことだが、飛び出したところで、強い風雨の中、建物の上空にまでの昇り、それが保護すべき建物の上にとどまるなどと都合の良いようになるのかは大きな疑問である。これはいわば、単なる通常避雷針の集合体であり、お迎え放電の出どころが多い分、落雷の捕捉率は向上するであろうが、それでは落雷を受け易くなるということであり落雷を防ぐことにはならない。
かのNASAが、そのような初歩的な誤りをするハズもないと思われるが、落雷についての奥の深さを物語っている。
DASの発明者も、欧州での販売は断念
落雷を抑制すると謳う装置には、上空から電荷を集めるといった説明が多い。それは机上の理論であり、想像に欠けているのが現場での強い雨風の状況である。電荷は電荷単独で存在するのではなく、雨粒や空気中で大きさも質量もあるエアロゾルに帯電したもので、周囲の状況に影響を受け、叩きつける大雨の中を電荷が勝手に動きまわる説明は納得しがたいモノがある。半導体の内部のホールとは訳が違う。
次の写真は、DASの発明者であるRoy Carpenter氏とPDCEの発明者Angel Rodriguez氏がパリで会った時の写真である。Angel氏によるとRoy Carpenter氏はDASシステムを欧州に広めようとフランスに来たが、欧州でのPDCEを始めとする落雷対策の多さに進出を断念したとのことである。
Angel Rodriguez氏(左) と
DAS の発明者 Roy Carpenter氏 (右)
欧州での動き
「お迎え放電」を早い段階から放出するESE
一方、欧州に於いても避雷針の研究は盛んで、地面の電荷を表面積の大きな球体に蓄えておいてお迎え放電を一気に流すことで落雷の捕捉率を高めたESE(Early Streamer Emission)と呼ばれる避雷針がある。これは名称の如く「お迎え放電」を早い段階から放出することで、捕捉率を高めようという狙いである。通常の避雷針に比べると、より高い位置に設置したのと同じ効果を発揮し、設置位置が高ければ地面での保護範囲も広くなるということで、欧州では広く使用されている。
その他、空気を電離して雷電流を流れ易くするために放射性同位元素を用いたものなども開発されたが、落雷を受ける度に放射性物質が空気中で飛散するため使用禁止になっている。
落雷の多いアンドラ公国で、PDCEが開発された
ピレネー山脈の麓にあるアンドラ公国では、INT社のAngel Rodrigues氏も落雷被害を低減したいとの思いで各種の避雷針を開発し、これをPDCEとの名称で販売していた。半球状の電極を上下に対向させた新型の避雷であり、これを世界に紹介した。
弊社もINT社の販売店の一つとしてPDCEの販売を2010年より開始する。PDCE (Pararayos Desionized Charge Electro Statica) 。このスペイン語を直訳すると静電気(Electro-Statica)の電荷(Charge)をイオンを消す(Desionized) Pararayos(避雷針)という事で、「消イオン型避雷針」と日本語名称を付けたが、この名称自体が怪しいので使うのは止め、単に「落雷抑制型避雷針」と呼ぶことにした。
さて、この「落雷抑制型避雷針」がどのように発展してきたかについて、記録を残していきたいと思う。
-POINT-
世界では、落雷事故を克服する挑戦が果敢に行われている。
日本では270年前に発明された避雷針だけに凝り固まった考えで良いのであろうか?
3. 日本への導入
NASAで開発されたDAS
日本への導入と改良
新型避雷針PDCEを発明した Angel氏は世界中の雷関連の会社にPDCEの紹介をメールで行った。知らない人から届くメールに対応する会社などほとんどないが、日本でも雷保護関連製品では有名なS社に勤務していた石崎誠氏は敏感に反応した。石崎氏は、このメールで紹介された製品を自分で確認しようと2005年、部下1名と共にアンドラのAngel氏を訪問した。アンドラは、スペインのバルセロナからピレネー山脈を車で数時間、箱根よりも険しい山道を上った先の小さな山国である。ピレネーの山中には昔、色々な国があったそうだが、ほとんどスペイン領となり残ったのがアンドラという事で、人口は8万人程度、住所にも「教区」という名称が入り宗教色が強く、元首はフランス大統領とスペインの司祭、インフラはフランス側からの供給、軍隊は無く、観光と金融業の国である。
Angel氏は自分が送ったメールに応え、ワザワザ遠いアンドラまで訪問したのは世界中で石崎氏だけという事で、石崎氏を歓待し、S社は日本での販売権を与えられ、日本でのPDCEの販売を開始した。日本と関係を持ったアンヘル氏は、敬虔なクリスチャンで、その後も広島を何回も訪れているとのことである。
アンドラ公国の首都(アンドラ・ラ・ベリャ)
初期の説明の誤り
日本で新しい製品の販売となると、今までの製品で既得権益のある業界との軋轢も生じる。また、誤解も多く、典型的な誤解としては、
1. この新型避雷針を設置すれば落雷が発生しない
2. 落雷が発生しなければ雷電流も流れない
3. 雷電流が流れなければ、雷電流から機器を護るためのSPDも不要
というもので、SPDを製造販売している会社としては受け入れ難い製品であった。落雷を抑制することを目指してはいるが、自然現象を100%防ぐことは無理で、また、直撃雷を防いだところで誘導雷を防ぐことはできず、SPDが必要なことは変わりないが、「直撃雷がなくなる」という言葉だけが先行し、雷保護業界での評判はかんばしくなかった。
注:SPD : Serge Protection Device(サージから機器を保護する保安器)
落雷被害を抑えることについての失望感と改良
この頃、日本での販売が先行していた米国LEC社製のDASは、冬に電荷を空中に放出する針の部分が氷雪で覆われて落下するトラブルが発生し、落雷への対抗策全体に信用が無かった時代であり、石崎氏もPDCEをアンドラから導入したものの、販売は低迷していた。それに追い打ちをかけたのがアンドラで開発されたPDCE-Seniorにトラブルが発生したことであった。このトラブルはごくごく稀にしか発生しないが、上下電極を固定するために、上部電極を支えるボルトと下部電極を支えるボルトがアクリル・ブロックの中で上下交互に隣り合っているが、隣り合うボルトの間で放電が発生し、アクリル部分が溶けてしまうのであった。
石崎氏は、エンジニアの良心として自分が日本に持ち込んだ製品を改良する責任を感じ、それに邁進した。石崎氏の属するS社は、PDCEの販売撤退を決めていた。会社として製品を改良する計画はなく、石崎氏は改良して販売を続けたいという技術者の良心と現実の板挟みになった。これに救いの手を差し伸べたのが古くからの友人である「茨城テック」社長の塩幡氏であった。石崎・塩幡両氏は共に接着技術を開発し、上下電極をアクリル・ブロックにネジで固定するのではなく、上下電極をFRPのパイプで固定する技術を開発し、CTS-Wという名称とした。
CTS-Wは、上下の電極をFRP製の円筒と接着剤で上下電極を固定する方法を考案し、大幅な部品点数の削減と落雷した際の強靭性の確保もさせた。PDCEをキャパシタとしてみた場合、上下電極の間の誘電体に優れた誘電率の絶縁体を用いるのではなく、単に空気としたため、例え放電が発生しても上下電極間の誘電体が壊れることはない。
(上図) Senior からCTS-W への改良 (模式図 実際の構造とは異なります。)
材質がアルミからステンレスに代わり、部品点数も大幅に減少した。
CTS-Wは、茨城テックにより2008年には完成し、石崎/塩幡両氏は2008年9月、これをフランスのポー大学に持ち込み放電試験を行い、好成績を納めている。しかしながら、会社として販売を停止していた製品を友人とはいえ他社の手を借りて改良を進めるというのは、石崎氏のエンジニアとしての熱意は評価できるが、会社としては好ましからざる事であった。新製品を開発するには、石崎氏のような情熱が必要なのであるが、その情熱を上手く会社として取り入れないのは開発技術者と会社の双方にメリットがない。自信のある技術者は一匹狼的な傾向に陥り易い。会社として、新技術の開発が大事なのは言うまでもないが、組織としての統制も同じく重要であり、今後、先の見えにくい将来需要に対し、会社の技術開発の指針を上手く定める事の重要性がますます重要になる。
PDCE事業からの撤退を決めていたS社からCTS-Wは販売することはなく、開発されてから2年以上、塩漬けになった状態であった。
CTS-W の特許不成立
CTS-Wは部品点数を大きく減らすと共に信頼性を向上させる技術革新であった。 これで開発された CTS-W は、従来のPDCE-Senior の電極がアルミ棒からの削り出しで製造していたものをステンレスのロストワックス法による精密鋳造とした。このCTS-Wは、日本で開発されたオリジナルなもので、 INT社の品揃えにも無く、これを販売するのは世界中で落雷抑制システムズのみであり、INT社のあるアンドラ国の避雷針業者からの購入の引き合いを受けることもあった。
この技術については、S社の石崎氏が塩幡氏と共に考案したが、PDCE-Senior を基に改良したという事でINT社のAngel氏との共同出願で出願された。しかし、出願が公開された時にはS社は販売を中止していたため、審査請求に進むことなく終えた。また、一部、審査に進んだものもあったが、審査請求の途中で拒絶に対応しなかったため、特許が成立することはなく、公開された公知の事実となってしまった。石崎氏とAngel氏としては残念な事であったが、これは石崎氏の落ち度ではなくS社という会社の判断なので仕方ない事であった。
名称が誤解を与えやすい「公開特許公報」
日本での特許制度での問題点は、出願し、18か月後に公開された場合「公開特許公報」の名称で公開される。特許制度をよく理解しないまま直訳すれば「公開」された「特許公報」と理解し、特許が成立しているものと誤解し、「公開特許公報」を得るや特許権を主張する外国人もいる。このような誤解を避けるためには「公開出願公報」のように明確な名称に変え、まだ、特許になっていないことを明確にすべきである。INT社のAngel氏はこの「公開特許公報」をもって日本での特許が確立していると思い込み、後日、INT社を買収した会社が弊社に「公開特許公報」を弊社に持ち込んで特許料の支払いを求めてくるという珍事が発生した。弊社は、特許権として成立していないものへの支払は当然拒絶した。この会社も「公開特許公報」をもって特許が成立したと思い込んでINT社を買収したが、特許は成立していないことを知って慌てていた。しかし、これはその会社の事前調査の不足としか言いようがない。
-POINT-
CTS-Wを開発したのは、石崎氏と茨城テックの塩幡氏
4.株式会社落雷抑制システムズの発足
落雷抑制システムズを起業
松本は、1995年まで日本アイ・ビー・エム社で情報配線関連の仕事に関わっていた。この情報配線に使用する部品はスイスのR&M社からのOEM製品であったため、その後、R&M社の日本進出の際に乞われてR&M社の日本支社長となった。R&M社は、スイスに本社を置くコネクタの専業メーカであり、欧州市場が主で、コネクタやパッチコ-ド、光配線のためのコネクタ、電話配線のための端子盤などをOEM製品としてIBM社に供給していた。日本においては、電話系の部材は前述のS社を販売代理店としていた。
当時の通信配線の状況
当時、日本では各家庭にまで光ファイバーを引くFTTH( Fiber To The Home )が世界の中でも最先端で導入が進められていた。そころが、欧州ではメタル線(銅線)による固定電話が中心で、特に東欧圏ではペレストロイカによるソ連崩壊前は、軍事最優先であったため、ソ連国内のみならずその周辺の東欧圏まで民間の電話網は非常に遅れた状態であった。ソ連崩壊となった後、民間のインフラ整備に力が入り始めたが配線の中心はメタル線であった。メタル線の場合、電話局舎内での配線を保守する仕事では、外の様子は分からず、メタル繊には雷電流が流れることもあり、数キロメートル先でも雷雨が発生していれば危険な作業なので、メタルの電話端子盤にも落電流対策が施されていて、これが松本の落雷対策との出会いとなった。
石崎氏・塩幡氏との出会い
電話用の落雷対策部品を扱う関係でS社との付き合いが始まり、石崎氏や塩幡氏とも巡り合うこととなった。S社の石崎氏は、自分がアンドラから持ち込んだ製品の欠点を補う新型の避雷針の改良を完成させていたが、S社がこのビジネスを拡げないことで辛い立場であった。松本は、それを知って日本での販売計画がない事をもったいなく思い、R&M社を退職し、2010年に新型避雷針を開発、販売する(株)落雷抑制システムズを起業した。当時はS社で技術部長であった石崎氏も、技術顧問として加わった。
(写真左から)石崎氏、Angel Rodriguez氏、松本敏男
日本での生産
(株)落雷抑制システムズは、2010年にINT社の販売店となり、当初は完成品の輸入販売、のちに部品を輸入していたが、2011年に塩幡氏が起業した(株)落雷抑制プロダクツで組立てるようになる。これにより、(株)落雷抑制システムズが販売する新型避雷針は、全て日本製となった。
日本で輸入したPDCE-Senior 用の部材は約200台分であった。販売店といえば、通常は完成品を輸入販売するだけであろうが、日本の場合にはMagnum の開発を行った実力をINT社が認め、単なる完成品の輸入販売のみならず日本国内に於ける組み立ても行っていた。その当時の組立手順書の最初の部分だけを示す。この手順書は、INT社による監修の下に作られ、日本で国内生産をしていた時に用いられた。日本で作られたことが無いなどと主張も存在するが、それはPDCE-Seniorの生産に関わった事のある者による主張ではなく、全く誤りである。このPDCE-Seniorの生産は 既に終了している。
接着技術
また、石崎/塩幡両氏は上下の電極をFRP管で接着し、電気的に絶縁しつつ、機械的に固定する技術を確立していたので、Seniorの国内組立の次は、新機種 Junior 、Baby の開発にも接着技術を用いた。INT社もSenior の改良として Junior 、Baby という2機種を開発したが、これには側面放電防止の工夫が何もなく、日本で発生した側面放電とそれを防止する技術ついては何の配慮もなかったため、日本では独自の Junior、Baby を開発した。改良されたのがPDCE内部側面で発生する側面放電の防止技術である。
放電発生しやすさは、電極間の距離が重要な要素になり、例えば電線を保持する碍子に於いても放電しないように耐圧を高めるためには、2極間の距離を稼ぐ工夫がされている。その他、材質もINT社がアルミニウムなのに対し、日本ではステンレスとし、内部放電防止板の他、溝にFRP管を彫り込んで入れて接着力を高めるなどの工夫をしている。
図1のINT社の原案では、上下電極の中心部の距離よりも、側面での距離が短く、上下電極間で放電があれば、側面で放電が発生してしまう。また、部品点数を減らすために雨カバーを兼ねた塩ビ樹脂で上下電極を固定している。この構造で内部圧力をどれだけ受け止めることができるか不安なため、日本では、図2の様に上下電極の固定には、FRP管が入り込む溝を作り、かつ中心部に穴の開いたドーナツ型の円板で上下電極の中心部を対向させて側面での放電を防いでいる。外からは同じように見えるが中身が外国製と日本製では大きく異なる。
この接着技術は、日本の接着剤メーカの協力の下に行われた。のちに開発する高温型で用いるセラミック素材といい、高温型のセラミック用接着剤といい、日本に於いては地場産業による周辺技術が進んでいるので新しい製品の開発においては諸外国に比べればまだまだ日本の底力の一つである。日本では、お客様の要求に応えて、INT時代の1機種から既に18種類の製品を開発しているが、同様製品の扱う外国メーカの製品数と弊社の製品数を比較すればその違いは明らかである。これも日本の底力のおかげの一つである。
HT300の開発
Magnum、Junior, Baby の次に開発されたのは高温対策を施した HT300、HT500 である。HTとは High Temperature のことで、高温を意味し、群馬県のある清掃工場で焼却炉の煙突に落雷事故があり、電気系統が破壊されてしまった。すると、
① 焼却炉は、プラゴミなど燃焼すると発熱量が高く、焼却炉を水冷している。水冷のための冷却ポンプが停電で使えないとゴミも燃やせない
② 排気ガスは、電気集塵機に通し、場合によっては尿素水噴射まで行って煙を浄化しているが、電気が使えないと機能しない
③ ゴミ取集車が町中から集めてくると、その重量を測定しているが、電気が無いとこれも機能しない
など、電気は多くの場面で必須の存在であり、電気設備を守ることは、社会インフラを安定稼働させるうえで非常に重要である。この要求に応えるため高温用のモデルの開発を進めた。上下電極を支えるFRPのパイプを耐熱性の高いセラミックにするのであるが、セラミックというのは種類が多く、ステンレスの鋳物と熱膨張率の値が近く、セラミックとステンレスで同じように熱により伸び縮みが発生すれば理想的なのであるが、その組み合わせにどれが適切か、そして接着剤は何が適しているかなどを模型のサンプルを作り、電気炉で熱した後、氷水に浸して急冷し、そのサイクルを数十回繰り返した後、破壊試験で強度を測定するという地道な事件を1年以上繰り返して、最適の組み合わせを見つけた。その後、接着剤を使用することなく篏合(カンゴウ)で固定する構造に改良し、特許も取得した。この高熱用製品は、ごみの焼却工場のみならず、発電所の煙突、化学工場の煙突など高熱対策の必要な場所で活躍している。
-POINT-
1)接着技術を開発したのは、石崎氏と塩畑氏
2) Seniorは、(株)落雷抑制プロダクツで生産されていた。
3) Magnumを生産しているのは、世界で(株)落雷抑制プロダクツのみ
4) Magnum は、(株)落雷抑制システムズの発足と共に発売
5) 外国製品とは、外形が似ているが内部構造が異なる
6) 内部放電防止機構は(株)落雷抑制システムズと(株)落雷抑制プロダクツの特許
7) HT500は、最高温対策(500℃)を施した製品は篏合構造で接着剤を用いていない
8) 高温型は、発電所、焼却工場、化学工場などの高温排気ガスの出る場所で多数使用されている
5.株式会社 落雷抑制プロダクツ
2010年、松本は、S社を既に定年を迎えていた石崎氏と共に(株)落雷抑制システムズを立ち上げると、塩幡氏は、翌2011年に(株)落雷抑制プロダクツを立ち上げ、現在は茨城県那珂市に一千平米の土地に自社工場を構えている。
この工場は、ISO 09001、JIS Q 9001を取得したPDCEの専用組立工場であるが、国内に工場があるので、お客さまからの細かな要求に迅速に対処でき、以前、外国製品の輸入販売をしていた時代からは大きな改善を得ている。落雷抑制システムズとは次のように役割を分担している
(株)落雷抑制システムズ: 製品の開発、営業
(株)落雷抑制プロダクツ: 製品の開発、試作、製造、在庫、出荷
当初、PDCE-Senior だけであったが、その後、お客さまの要望に応え、製品の種類を増やしている。前述のHT300を始めとしてご要望の中から誕生した製品を以下に紹介する。
[PDCE-Baby]
高さ30mのご神木を守りたいというので開発した。30mもの大木の先では思いモノは設置できない。そこで重量は2.5KgのBaby を開発した。これは重量が2.5Kgあるが、長さ1mのCFRPのパイプを14本つないで14mとし、ご神木の天頂のさきから1m上に取付け、ご神木の天頂から、13m下がればご神木の幹もそこそこ太くなるので、その辺りでご神木の幹でCFRPのパイプを支えるというモノであった。これは実現できなかったが、その後、Baby は保護範囲が小さくても機器のみを落雷から守れればということで、監視カメラ、小型漁船、釣り船などで多用されている。
国内に工場があるので、色々な要求に柔軟に対応している。その1つが落下防止策である。下の写真は某スタジアムであるが、PDCEを設置した場所の下には大勢の観客がいるので、何が起きても絶対に下に落としてはいけない場所である。スタジアムの屋根であるが、この下には観客がいるので、3本の落下防止策を取付けている。このために下部電極にはUボルトが必要であるが、このような要求に対して迅速に対応している。
送電鉄塔の上に取り付ける場合、鉄塔には天頂に向いたボルトが残っていることも多く、このボルトを利用して取り付ける。標準型の取付プレートでなく、お客さまの設備に合わせた取付プレートが必要な場合には、特注で作り本体に取り付けて出荷している。
このように、お客さまの要求に合った使用に迅速に答えることができるのは国内に工場があるからこそである。
6. 落雷を抑制する仕組み
落雷と言えば輝く雷光と轟く雷鳴を連想するであろうが、雷鳴/雷光が発生してしまった時点では手遅れであり、この状態を変えることはできない。本製品は、このような状態に遷移する前の状態で、「お迎え放電」を抑制することで落雷を未然に防ぐことを目的にしている。
落雷の発生
落雷の発生は、雷雲の底部から複数の「先行放電」が同時発生的地面に向かって降りてくる。そのうちの大部分は、電荷の補給が止まり、空中で消えてしまう。このうち、雷雲からの電荷の補給が継続するものは地面に近づく所まで降りて来る。しかし、PDCEからは「お迎え放電」が上がらないので、この地面近くまで降りてきた「先行放電」もPDCEには導通できずに消えてしまう。「先行放電」は自然現象なので発生を防ぐことはできないが、地面からの「お迎え放電」を発生しなければ、このPDCEに落雷することはなくなる。
お迎え放電の抑制
お迎え放電を発生し難くするためには、電極の形状が大きく影響する。フランスの Pau 大学での放電設備での実験で確認したのは、針のような形状とシイタケの傘のような半球状の形状の比較では、圧倒的に針の方に放電し、半球状のシイタケ形避雷針には放電し難い事である。Pau大学の試験設備については、次回以降に解説するが地面の役割をするグランドプレートと雷雲の役割をする上部電極の間に電圧を加え、グランドプレート上に置いた被試験装置の挙動を観察する(図1)。
また、お迎え放電の元になる地面からの電流であるが、これも同じ高さの針型避雷針を直接接地して地面からのお迎え放電となる電流をそのまま流す場合と、避雷針と地面の間にキャパシタを設けて地面からの電流を流し難くした場合の比較では、これも地面からの電流を流れにくくした方が放電し難くなることを確認している(図2)。
地面と避雷針の間にキャパシタなどを挿入したら、インピーダンスは無限大になり、接地の役割を果たさないであろうとの常識的な理解は承知しているが、これもある程度の電圧がかれば、キャパシタの内部で空気の絶縁破壊が発生し放電するので、接地が導通していないとの心配は無用である。
PDCEの構造は、この二つの要素を組み合わせているのでお迎え放電を発生させないというのが第一の落雷を抑制する仕組みである。
次の要素としては、PDCEに落雷すると表面が溶けてその痕跡がのこる。この痕跡は圧倒的に下部電極が多く、上部電極には少ない。この事実から、雷雲からのマイナス電荷が多いので、下部電極にはプラス帯電、上部電極にはマイナス帯電があると推察される。
雷雲【夏季雷の底部は負電荷】が接近すると地面には正電荷が誘起される。この正電荷は、引き下げ導線を伝わってPDCE避雷針の下部電極に貯まる。すると、絶縁物を介して上側電極には負電荷に分極する。雷雲の底部は負電荷なので雷雲とPDCE避雷針の上部電極の間では放電はしない。また、下部電極は、滑らかな曲面なのでお迎え放電も発生し難い形状になっている。PDCEに落雷し難い要素は複合的なものであるが、それぞれをPau大学での放電試験設備により確認している。
落雷の様子を観察すると、ギザギザの道を進むように上空から降りて来るが、何故、ギザギザかというと、放電の一回当たりの到達距離は最大で約100m程度で、100mを伝わると電荷が無くなり、また、上空の雷雲から補給されて次にジャンプすることを繰り返しながら降りてくる。
雷は射撃の名人か?
避雷針の先端を1ミリ・メートル角として,最後のジャンプで100m先から命中するであろうか?標的の大きさと距離の比で言うと 1mm : 100m( 100 x 1000mm ) で1:100,000 になる。遠くの標的を狙うのが得意なのは、例えばゴルゴ13のような狙撃手で、2km先の20cmの的に命中させることができる。標的と距離の比は 20cm : 2000 x 100cm で 1: 10,000 、落雷という自然現象が人間よりも10倍も良い精度とは考えにくい。とすると、避雷針に命中するには、落雷が一方的に避雷針落ちるのではなく、避雷針の先から「お迎え放電」が上昇し、これが上空から降りてくる「先行放電」と異電荷であるから互いに引き合い、3次元の空間で引きあって結ばれ、放電路が形成されるので、次に大きな電荷が上空から流れ落ちてくるのが「落雷」である。
イオンが集まる?
PDCEのDというのはスペイン語のDes-ionized で「イオンを消す」というような意味であり、当初、弊社も「消イオン型避雷針」との日本語名称で読んでいたが、「イオン云々」というのは怪しげで開発元のINT社にも納得できる説明もなく、この名称の使用は取り止めた。Pau大学での放電試験では、明らかに通常避雷針との差が出るが、その原因はイオン以外の事であると考える。半導体の内部であれば、イオンは自由に動けるが、静電気の電荷は空気中の雨粒や微粒子などに帯電して動くのであり、それが雷雲の強い雨風の中で100m先から集まるなどとの説明は、ただの推論であり、実測した訳ではない。そもそも自然現象が人間世界の都合の良い10進数の100mなどと扱いやすい数字で発生するという事もあり得ない。製品の開発元が言うのだから正しいであろうというのも必ずしもそうではない。発明家というのは、アイデアマンであるが理論家とは限らず、発明王エジソンのように、ほとんど教育など受けていなくても身の回りを改善するアイデアなど出るもので、理屈は後付けであることが多い。理論を考え抜き、理論を重ねた上での発明など非常に少なく、このPDCEもこのような形状に落ち着くまでの変遷を見ると最後はアイデアなのである。であるから、発明した人の論理的な説明が正しいとは限らないのである。
-POINT-
1) 先行放電は、自然現象でありこれを防ぐことはできない。
2) お迎え放電は、放電しにくくすることで防げる。
3) お迎え放電が発生しなければ、放電路が形成されず、落雷を防げる。
4) PDCE避雷針は一種のキャパシタであり、2つの電極が絶縁物を介して相対している。
下の電極に、地面の電荷【プラス】が貯まると、上部の電極には逆の電荷【マイナス】が誘起される。
5) 雷雲の底部は【マイナス】電荷が蓄えられているため、雷雲の底部と同じ極性の
【マイナス】電荷をもつPDCED避雷針からは「お迎え放電」が発生し難い。
7. フランス ポー大学での仏規格(NF-C17)による避雷針の性能試験
避雷針の評価について
フランス規格(NF-C17)に基づき、参照用として典型的な通常避雷針へ放電が発生する環境を設定し、次に通常避雷針をPDCEに置き換え、同じ電圧を印加してもPDCEには放電しないことを確認した。この試験は、通常避雷針の性能を試験するための規格で参照用の一般的な避雷針と試験対象である避雷針の放電電圧を比較することにより避雷針を評価するものである。
雷放電を受けるための避雷針であるから、その性能は低い電圧で放電を受ける方が良いと判断される。通常型の避雷針にもその派生は多々あり、突起部を複数個配置してみたり、面積を大きくしたり、避雷針と聞いて想像する単純な突針よりもはるかに色々な種類がある。一方、PDCEは雷を受け難い避雷針であるので、放電開始電圧は高ければ高いほど性能は高いことになる。
この試験に関し、日本で行うことができない。例えば、裁判が国の定めた法律と手順に基づいて行われるのと同じことで、公的な試験というのは国の定めた規格の中でその試験設備、試験方法、評価方法などが国の最高の知見を集めて作られた工業規格の中で規定されたものでなければならない。設備としては、日本にも同様な試験設備があったとしても、日本には試験について定めた規格が無いのでフランスで試験を行っている。例えば、鉄などの金属材料の強度についての試験なども、製造メーカが勝手にそれぞれの方法で試験するのは、あくまでもメーカ内部での話であり、公的にはJIS規格に定められた方法で行うのと同じことである。
ここでは、Pau大学での放電施設での試験について解説する。
地面として機能するグランドプレートの上部2.3mに雷雲の底部として機能する直径2.35mの円盤状の電極がある。この上部電極と下部のグランドプレートの間に参照用の通常避雷針を設置し、避雷針の先端と上部電極間を1.2m 離した状態で電圧を印加し、これを数十回繰り返して50%確率、100%確率で放電する電圧を求める。 その日の湿度や大気の状態でこの電圧は変化する。
電圧の印加を始めると、途中で紫外線の発生があるが、通常避雷針のような放電は発生しない。通常避雷針との比較試験であるので、通常避雷針で放電した電圧に達成すると、電荷の印加は止める。すると、今までに加えた電荷は、徐々に放電するが、この後、作業員がゴム長にゴム手袋で完全に絶縁し、絶縁棒の先にグランドプレートと接続されたアース線を上部電極に押し当てて上部電極に残った電荷を排除する。
これは試験設備の挙動であって、被試験装置の挙動ではないので、例えば、ニンジンでもダイコンでも放電しなければ同じ結果なのであるが、これを「自社製品はユックリ放電して落雷を抑制する」などと説明している製品もあるが、トンデモナイ間違いであり、通常避雷針との比較の中で、通常避雷針は一気に放電するが、抑制型の避雷針はユックリ放電するなどと説明するのは、単純な間違いというより、放電試験の背景を知らない一般消費者を惑わす意図的な悪質な説明である。
PDCEと通常避雷針を同じ高さにして試験。
従来の避雷針に放電し、PDCEには放電しない。
通常避雷針をPDCEよりも下げての試験。
この試験では、通常避雷針、PDCE双方に放電は発生しなかった。これについては、PDCEの高さを基準の位置としたので、当然の結果ともいえる。
今までに、この施設で試験したのは
1. PDCE-Baby
2. PDCE-Junior
3. PDCE-Senior
4. PDCE-Magnum
5. 水平型(太い)
6. 水平型(細い)
7. 避雷球(大)
8. 避雷球(小)
であり、何が有効で、何が効果なしなのかを確認している。
8.製品の概要
構造の概要
PDCEは2つの金属製の半球(直径約20cm)が絶縁物を介して電気的には分離し絶縁された状態で、機械的には強固に接合されている。半球の内部は、中央部分が放電用の突起として存在し、その優位はくりぬかれた形状をしている。上下の電極で放電用の突起が中央部分で対向していて、もし、上部電極に落雷しても、PDCE内部の放電用突起の間で放電する事は確認されている。また、半球の下部電極の外側には支持用の支持棒が付けられている。この支持棒の反対側の先には取り付けプレートと呼ばれる円盤状の板が付き、フランジのついた支持管の上で取り付プレートとフランジをボルトで結合することで支持管に取り付けることができる。避雷設備の受雷部は、この下部電極である。
雷雲の高度が低い日本海側で、標高の高い山頂などに建てたPDCEは、雷雲の底部にスッポリと入ってしまう可能性がある。この場合には、地面と雷雲の間での放電の中継ぎになるので抑制効果の前にPDCE自体に落雷してしまう。 Magnum の場合は、内部が垂直方向でも対称形で中央部にある放電用の突起部分の間の隔離距離が上下電極の側面管の距離より短いため内部側面で放電する可能性は低いが、上下電極間の外側で放電することはたまにある。上下電極は、上下電極に円周状に彫られた溝と円筒形の支持物でしっかりと固定されている。
Juniorの場合には雨カバーと一体になった構造物で上下電極も固定する構造で上下電極側面の距離を大きくするためにドーナツ状の絶縁円板があり側面での放電を防いでいる。
Magnum と Junior 共に上下電極の間に見えるのは、内部に雨が入らないようにしている雨カバーであり、上下電極を完全に絶縁遮断しているものではない。上下電極の間で放電が発生し、内部の気圧が急激に高まってもその圧力を逃がす構造であるため、雨が内部に入らないようにするカバーが必要である。
この構造に対し、従来型の古典的避雷針を支持するか方々からは、受雷部に絶縁体があり、これはIEC規格にそぐわないと指摘されることがあった。この御意見についての弊社の見解は、
1) 受雷部は下側電極であり、その上に絶縁体と金属電極を載せている。通常避雷針もその周囲や上部は、大気という絶縁物で囲まれていて受雷部と絶縁物という関係では、通常避雷針もPDCEも同じである。
また、受雷部の形状が半円球で「突針」とは言えないとのご指摘については、
1) JIS規格の原文であるIEC規格では、避雷設備の先端部分は、単純に Air Termination System と呼ばれているだけで、その形状が「針」のような尖ったモノでなければならないとの規定はない。JISの英語版でも、受雷部システムは、Air Termination System と呼ばれ、日本語に於いては「突針」と和訳されているが、英文では単に rod とされていて、「針」だの「突」だのと言った形状についての概念はない。英文に含まれていない概念を和訳に際し、勝手に日本語に加えたらそれは「誤訳」というもので、英文を和訳する場合に勝手な概念を付け加えてはならない。
2) これは、恐らく、明治の初期に洋物の文化が日本にもたらされた頃の「避雷針」という誤訳のイメージが強いが故の御意見と思われる。今でも子の半球体の丸っぽいものが「突針」なのかという問いは寄せられる事があるが、そもそも「針」であるとか「尖ったモノ」という先入観が誤りなのである。
避雷球(PDCE)の種類
・PDCE-スーパー316L (A) : Junior の形状で材質がSUS 316L
・PDCE-スーパー316L (B) : Junior の形状で材質がSUS 316L
ここまでが2024年 6月現在の販売中の避雷球PDCE の機種であるが、これらに加え次のような機種もある。
水平型PDCE
NHKのTV番組『クローズアップ現代+』で、2016年12月 5日、高層ビルの屋上壁面への落雷により、屋上のコンクリートが地面に落下する事故が多発していると報道された。実際、弊社にもそのような事故が起きると解決策を求める依頼がよせられる。この事故が発生する理由は単純で、屋上の周囲には「棟上導体」と呼ばれる接地線が張り巡らされているのだが、これが建物の内側に設置されている。これは、「回転球体法」と呼ばれる考え方で、建物の淵に落雷が到達する際に「棟上導体」で雷撃を吸収してしまおうという考えであるが、それであれば、建物の外面に配置しなければならない「棟上導体」であるが、建物の外面に配置すると設置から時間が経過し、経年劣化でそれが地面に落下する危険あるので、屋上の内側にオフセットしても良いことになっている。そのため、雷撃は「棟上導体」に届くことなく建物の外壁との間で放電が生じ外壁を壊している。
この外壁が落下する事故は、日本中で発生しているが、幸いにも死傷者はでていないが、高さ100mから落下するコンクリート片が人体に当たれば軽傷で済むとは考え難い。建設する側としては、建築基準法に定められたように施工し、たまたま自然災害に遭っただけであり、既に施主に引き渡した施主の資産であり、建設をした自自分達には関係ないとのことで、これを未然に防ぐことには積極的ではない。
弊社は、これを防ぐ手立てとして「水平型PDCEとして」何点か特許取得している。 最初のものはPDCEの断面をそのまま型押しで長尺にすることを考案したが、これは材料的にはPDCEを水平に複数個並べているのと同じことなのでコストの問題があり、実用化には至らず、この構造をナントカ低廉にできないものかを検討した結果、パイプとその中に丸棒をおき、PDCEの上部電極を外側のパイプ、下部電極を内部の丸棒に置き替え、絶縁物でこれらを機械的には固定しつつ電気的には絶縁した状態で内部の丸棒を接地することで、放電し難くなることを自社の放電設備で確認し、さらにフランスのPau大学の付属施設でフランス規格(NF-C17)による放電試験でその性能を確認した。この断面は、単なる同軸構造で、これは同時ケーブルでも内部導体を接地し、外部導体を絶縁しているのと同じ構造なので、もしや、同軸ケーブルがつかえるのでは? と淡い期待をしたが、その後の試験で、重要なのは外部導体と内部導体の隔離距離でケーブルのような外形が細いものではその効果は得られず、思った通りの結果であった。この水平型は、建物の屋上や、即撃雷対策としてパイプを垂直にしてビルの角、あるいは水平にして60m以上の外壁に取付けるが、窓ガラスの清掃をするゴンドラに干渉しない形で高層建物の壁面に配置する。これにより側撃雷を抑制するのに有効と推察されるが、建物に取付ける部分のノウハウが弊社には無く、建材メーカとの提携を模索している。
避雷球PDCE(避雷球)
水平型PDCEについては解説したが、この水平型に垂直軸を想定し、その軸を中心に水平に回転させると球形になる。 これが「避雷球」で内部の球(下部電極に相当)を更に外側から内部を覆う球(上部電極に相当)の二重殻構造になっている。 回転図➡
これは、Pau大学での試験では、放電試験設備での最高電圧を加えても放電しなかった実績があり、お迎え放電を出さないことで落雷を抑制する形のものとしては、究極の最終形のものと考えている。 避雷針の形状の進歩としては、針から上下電極構造、そして避雷球へと進化している。
この避雷球の応用としては、風力発電のブレードの翼端にこれを取付けることを想定し、ブレードの長さ110mが20RPMで回転するときの翼端における加速度で50Gを想定し、遠心力載荷試験を行い、これに耐えることを確認している。
これは、日本、米国、中国、欧州でも特許取得している。
9.効果の確認
PDCE避雷針に落雷抑制に効果があることは、フィールド試験で確認されている。
青森県の風力発電施設の一部をお借りした実証試験
場所:青森県西津軽郡深浦町
取付場所:風力発電のブレードの保護を目的としてブレードの上部に架空地線を張るために設けられた高さ92mのポール2本の内の1本の先端
期間: 2014年 4月~2019年 5月
試験方法: 1mの隔離距離で同じ高さに取付けた通常避雷針とPDCEでの落雷数の比較。それぞれに取付けられた雷サージ・カウンターの値を取集
結果:通常避雷針に11発の落雷があったが、PDCEへの落雷はゼロであった。
(写真:中央の風車の両側に建つ高さ92mのポール)
風車の両側に建つ高さ92mのポールの間には避雷導線が張ってあり、ブレードを落雷から保護している。この片側(海に近い側)に通常避雷針とPDCEを同じ高さで水平方向には1mの隔離距離で取付け、それぞれに雷サージ・カウンターを取付けて落雷回数を測定した。
このポールの冬季雷の終わった5月頃と夏季雷の終わった10月頃、年2回、作業員の方にポールの上まで登っていただき、カウンタの写真を撮影する実験を5年間に渡って行った。
(写真左:PDCEと通常避雷針。中央にいるのは松本 / 写真右:92mのポールの上での作業)
(写真:風車とポールの位置関係)
この風車は、老朽化に伴い、現在ではポールと共に撤去されている。
-POINT-
実験室での放電試験の結果だけでなく、冬季雷の多い地域で5年間に渡るフィールド試験を行って、冬季雷にも効果があることを確認している
大規模設置事例での設置後の状況
弊社のPDCEは、大手私鉄15社のうち、12社で使用されている。鉄道施設というのは屋外に設置された長大な電気回路ともいえ、公共サービスを担っているので落雷のような自然現象による事故であったとしても、サービス停止時間を最小にしなければならない。このため、多数のPDCEが沿線の変電所、無線設備、信号制御、踏切などの電気設備を保護するために使用され、その総数は軽く1,000基を超えている。
京王電鉄の場合
中でも大規模なのは、京王電鉄様で新宿から八王子、途中、調布から橋本までの営業キロ数86㎞に対し800台を超えるPDCEが沿線に設置されている。 その沿線の落雷数を弊社は、設置が始まって以来10年間、そしてこれからも毎年、観測を継続し、線路全体を含む調布を中心とする50km四方と線路に沿った沿線の5㎞四方の落雷数を長期観測しているが、PDCEの設置が始まって以来、雷による大きな事故には遭っていない。厳密にいえば、誘導雷による小さな事故はあるが、これらは装置のリセット、最悪でもヒューズを交換する程度で回復できるが、直撃雷に会えば、ケーブルから装置に至るまで真っ黒に炭化し、どの部分から復旧させるかさえ見極めが困難となり、復旧に時間を要する。少なくとも、PDCEを設置して以来、そのような事態には陥っていない。京王電鉄様については、弊社HP「お客さまの声」に掲載している。ぜひご覧いただきたい。
富山、新潟における山頂のTV中継装置
TVの電波は直進し、山の反対側には届かないので山頂にはTVの電波を中継する設備があり、これは民放、NHKなどが共同で使用している。富山の民放3局、新潟の民放4局とNHK様の中継所合計12局にはPDCEが設置されている。山の上であるから、当然、公共の交通機関など無く、事故があれば徒歩で雪の中を修理に赴かねばならない。そのような環境の下で使用され、落雷事故が減少している実績を重ねている。
1社で20台を超えるような大規模事例
1社で20台を超えるような大規模ユーザーの数が増えている。こういうお客様の設置からある年月を得て、その声をまとめることも重要なことと考える。
2024年8月で約4,000基が設置されこの数を増やしていくと、今さら、検証試験などを行わずとも、この設置個所での落雷状況を観測していくだけで効果については検証可能な実績が出来上がりつつある。
10. 落雷の発生メカニズム
落雷は、突然発生するのではなく、発生するまでに次の3ステップがある。
① 雷雲底部から地面に向けて「先行放電」が降りてくる。
② 地面から「先行放電」に「お迎え放電」が向かい、結合すると放電路ができる
③ できた放電路に雷雲の底部から電荷が流れる(平均的には3万アンペア程度で大きいと20万アンペア強に達するものもある)
このうち、①先行放電の発生は自然現象であり防ぎきれない。しかし、②のお迎え放電を出にくくすれば、③には至らない。従来の避雷針が、何故「針」なのかといえば、尖ったものの先からの方が放電し易いために「お迎え放電」を発生させやすいように先を尖らせた「針」になっている。これにより落雷を誘導しているのが古典的な「避雷針」である。「雷」を「避ける」「針」と書くが、実際は雷を誘導しているのが「避雷針」である。落雷は単純な放電現象に見えるが、自然現象は奥深いものがあり、日本では、太平洋岸の夏の雷だけでなく日本海側の冬の雷がある。この冬の雷は、落雷の規模も強力なものがみられる。これは、世界でも珍しい落雷の一つで、上空に向かって放電するなど、その発生・発達の過程は未だ解明されていない部分も多い。
青天の霹靂(へきれき)などと呼ばれ、空が晴れている中で突然の落雷もあるが、電荷の無い場所に放電は起こりえない。付近の雷雲から一部流れてきた「雲」と認識できない程度の氷の粒が帯電して流れてきた結果の落雷であろうが、晴天の下でのいきなり数発の落雷は、ままある事で、これについては雷雨になっていないので生徒にクラブ活動の禁止などを指示できないまま、落雷事故に遭った例もある。
よく聞かれる質問として、「では、落ちなかった雷はどこに行ってしまうのか?」があります。これについては、元々、空中での放電が8割を占め、【対地放電(落雷】は2割程度なのです。放電は起きやすい所で発生するだけの事で、地面に放電し難ければ空中での放電が増えるだけの事と考えます。最初から地面に落ちるべくして降りて来るのではないのです。地面に降りる電荷の補給が上手くいかない経路での放電は空中で終わってしまう。
次に多いのが、「お前は自分勝手なヤツだ。自分にさえ落ちなければ、近所に落ちてもいいのか?」というご質問である。自分に落ちてきたものを相撲で言う「ウッチャリ」をかけて近隣に投げ飛ばす・・・そんなイメージのようであるが、それも実態と異なるのは、落雷として発生してしまったものがPDCEの直近にまで来て方向転換などすることはありえない。そのような方向転換をさせるエネルギーなどどこにない。時間軸で言えば、そのような稲妻が近づいてくるのを自分の近隣に誘導しないようにお迎えを出さないようにしているだけなのである。もし、近隣に落雷するようなことがあれば、それはその場所からお迎え放電が出ていただけの事で、自分の場所に取付けたPDCEとは関係の無いことである。
-POINT-
1) 落雷は突然始まるのではなく、放電が始まるまでに3つの段階がある
2) この中で、自然に発生する部分については人間が制御することはできないが、「お迎え放電」を抑えれば、その後の段階が連続しないため、落雷の発生を止めることができる。
11.落雷を誘導することの不都合
情報や電力のネットワーク化が進むに従い、従来の避雷針は、次の様な問題を抱えている。
① 落雷を必ずしも100%の補捉率でとらえることはできなく、避雷針の近辺への落雷を誘発していることがある
② 避雷針に誘導できても、雷電流をどこに逃がすかが問題となる。
引下げ導線で、受雷部から地表付近に下してきた雷電流を確実に地中深くに流すには、雷電流を流してもパンクしないような特別な絶縁ケーブルを用い地面を100mほどボーリングして絶縁ケーブルで雷電流を地中深くまで運び、そこで放流する。この方法は深埋接地と呼ばれ、通常の接地では地表付近から雷電流が同心円状に拡散するのを防いで確実に雷電流を地中深くに伝搬することが可能であるが、難点は費用で、受雷部からして絶縁碍子の上に載せ、ボーリングで用意された穴に特殊な絶縁ケーブルを用いて地中100m以上も通すとなるとかなりの工事となりその費用も大きい。
③ 雷電流を地表付近で放流すれば近辺の最終需要家に雷電流が流れ、家電製品を破壊するなどの悪影響を及ぼす。TV局の放送用のタワーなどで落雷に遭っても障害を発生しない例も散見するが、接地工事に億円単位の費用をかけている立派な接地がされている場合であり、通常レベルの接地工事では、雷雨で雨に濡れた地面の方がインピーダンスは低く、雷電流は地面を流れてしまうことが多い。
右の写真は、高さ30m の独立避雷針を建てた柱で、そこに落雷した結果、基礎のコンクリートの一部が壊れただけでなく、基礎の脇の土砂がショベルで掘られたように穴が開き、その土砂が前の道路に投げ出される事故も発生している。一部が地面で土砂を跳ばすエネルギーに代わった後も、雷電流は地面から屋内施設に入り込んで電気設備の一部を破壊している。
④ 270年前であればオイルランプの時代であったので落雷を誘導し、雷電流が何処に流れても何の副作用も無かった。また、ビルの屋上の避雷設備に落雷した場合、最近のビルには次の様な多種多様の配線がビルの内部にビッシリと張られている。
1) ビル管理用
2) セキュリティ 入退室管理
3) セキュリティ監視カメラ
4) セキュリティ 火災/検出と報知
5) 電気 照明用
6) 電気 電気製品用
7) 電気 エレベータ用
8) 電気 水道ポンプ用
9) 情報配線【LAN】
10) 空調管理
これらの総延長は、1000人規模のビルであれば100kmを軽く越える。そして、そのようなビルは構造体接地でビルの骨組みの鉄骨をそのまま引き下げ導線として利用する。この構造体に雷電流が流れれば、周囲に配置された電線にも誘導電流が流れ、そのシステムに副作用を生じる。あるいは、鉄塔などで機器類は保護設備で守れたとしても、雷電流が地電位を上昇させて周囲の民家の家電製品を破壊することもよくある。建築基準法に従った雷保護がキチンとされていて、周囲の通行人や建物自体は本来の目的のように保護できても、エレベータの制御装置や内部のネットワーク等に被害を及ぼしたケースは多々ある。
今後、太陽光発電パネル、大容量電池、電気自動車の車載電池まで利用するなど、電力設備に用いられ、機器の種類が増えてきた場合、損害が大きくなることが心配されている。雷電流は流さない事、すなわち、落雷は無理に受けることなく済ますことができれば一番良いのである。
-POINT-
現在の状況は、270年前と環境が全く異なる。ワザワザ、建物に雷電流を受けても建物自体や周囲の通行人は守れても、建物内部の電気製品、ネットワークには何の助けにもならない。
12. 規格について
標準化について
男性であれば一度は迷ったことがあるかと思われるカミソリの替え刃であるが、製造メーカにより取付方法が異なり、異なるメーカの製品を間違って購入すると全く役に立たない。しかし、これは生命の安全に影響するようなものではなく、例え統一モデルを作っても双方の既存の利用者にとって手持ちのモノが使用できなくなるマイナスだけであるから、統一モデルに標準化されることは、特別な事情でもなければ困難であろう。
対極にあるのが2千年ほど前にイタリアのベスビオス火山の噴火で埋まってしまったポンペイ遺跡であるが、馬車の轍(わだち)がクッキリと馬車の専用道に残っているそうで、見事なのは車輪の幅が決められていた証であり、標準化が2千年近くも前から行われていた。車輪の幅など種類がいくつあってもいいのでは? とはいかないのが、馬車を引く馬はいつでも自由に排泄をする。その「落とし物」が道路に散乱しないよう、馬車の通り道は地面から少し掘り下げられた専用道があり、「落とし物」は常に一段低い専用道に留まる衛生的な配慮がされていた。地面より低い馬車専用道を人が横断するために馬車専用道の所々に飛び石が置いてあり、飛び石の間を両車輪が通り抜ける為、車輪の幅が統一されていた。消費者側から言えば、どの製品でも間違いなく安全に使えるのが好ましく、利便性、安全性が担保されているというのは、標準化が進んでいる状態と言える。
しかしながら、例えば素材である鉄やアルミなどの強度試験を各製造者が自社の基準においてのみ試験していたら、あるいは自動車の衝突安全基準なども自社で決めた試験方法、評価方法でのみ試験していたら、利用者の生命にかかわる事故が起きることもあり得る。そう言う場合が、お国の出番で、この標準をキチンと文書で残し国としての拘束力を課しているのが規格である。
自由貿易と各国の規格
工業化の進展に伴い、国として標準を決めた規格は、自由貿易の下で、輸出したい国と輸入したくない国の間での攻防の材料に使用された。自国の工業規格に合わないから自由貿易の対象にならないという側と関税以外の自由貿易の障壁に工業規格を持ち出すなという側との折り合いで、それなら工業規格を統一しようという中で、日本もそれまで独自に規定していた電気関連のJIS規格を国際規格のIEC規格に統一しようという事となり、JIS規格の内容がIEC規格の内容に合わせられたのが2003年である。日本の経済が非常に好調であった1980年代、各国間の貿易の不均衡を是正し、自由貿易を促進しようとするための貿易協定の中で、各国独自の工業規格が非関税障壁とならないようにとのことで、工業規格は、国際化が進められ、日本のJIS規格も独自のものをとり下げ、電気の場合にはIEC規格が基になった。
規格を決めるタイミング
国が決める規格となると、頻繁に改訂ばかり繰り返す事できなく、技術の進歩と規格化のタイミングが重要ようになり、例えば、無線LANでは、米国規格ANSIで規定すると改訂が5年に一度になってしまうので、技術の進歩に追いつけない、かといって野放しにするとメーカ間の互換性も保てなくなるので、これを国家規格と別団体のIEEEの標準として、互換性を保ちながら急速の進歩を遂げた例もある。技術の進歩と規格という枠を定めるのは技術が成熟した後では遅いし、早すぎれば技術の進歩を阻害することになるが、規格が技術の進歩を阻害してならないのである。先発組が自己の既得権を守るために、後発の新しい技術に対し規格を振りかざして排除しようとするのは世のためにはならないのである。
避雷設備のための規格であるからと言って、避雷設備だけが単独に存在している訳ではなく、建物には電気が使われているので、電気の保安用の接地も必ず存在するし、接地はその他、通信用もあり例えば、電気の配電設備は日本と諸外国では大きく異なる。これは技術というより、文化的な違いをも含み、世界中の規格を統一するというのは非常に難しいことである。
規格と規格への適合審査
ある製品が規格に適合しているか否かについて、人の命に係わる安全性が非常に重要な電界配線設備に使われる部品、例えばACアダプターなどは商用電源を使うのでPSEマークなど、適合審査が行われ、それが表示されている事で消費者の安全が守られている。ところが、外部雷対策品について言えば、(受雷部、引下げ導線、アース)の3点から構成されるが、このうち、引き下げ導線、ア-スは、工事現場で製作されるもので、受雷部のみが工場で製作されたものであるが、これもカサギ、パラペット、手すりなどの建築資材を使用することも可能であるので、(受雷部、引下げ導線、アース)の3点をまとめて適合審査することなど不可能であり、受雷部として、材料の種類とその厚さが規格に適合しているか否かは、第三者が認定するのは困難で、製造メーカの責任でこれが守られている。弊社製品についても、これがJIS適合していることを公に認定された書面を要求されることがあるが、その前に270年の歴史ある通常避雷針でさえ、その仕様が規格に適合していることを第三者に公的に認定されたものなど一本もないのである。ましてや、その性能についても落雷をどれくらい補足できるかなど何の性能保証もない。
これらについて外国製の製品が
IEC規格とJIS規格は類似のものである
IEC規格を外国の第三者認証機関で取得した
故に、日本のJIS規格にも適合している
と飛躍した宣伝を散見するが、これは全くの誤りである。日本国の規格はあくまでJIS規格であり、外国の規格を外国の第三者機関で認証を受けても、日本国内では何の意味もない。外国で取得した運転免許をひけらかすようなもので何の意味もない。
日本では接地だけでも、建物の保護用、通信設備の保護用,電気の保安関連などがそれぞれ昔の省令のまま生き残っている。ところが時代は、「統合接地」に向かっている。日本はハイテクの国であるというイメージを持っている人が多いが、ハイテク製品は旧態依然の規則に縛られない分野だけである。日本の規格が世界からは周回遅れになっているものもあり、規格、規格と規格を振り回すことが無いよう、その意味をしっかりと理解するべきである。
規格は技術ではなく、政治
規格というのは、純粋な「技術」の世界ではなく、それよりは「政治」の世界に近いものがある。国際規格への影響力を持つには、何より英語力である。今まで日本人の貧弱な英語力のために、技術的には世界をリードしていたのに規格の面で後れを取ったものは多々ある。それと日本では、規格の委員会の仕事は会社の仕事の片手間で行うが、欧米では会社や国のために専業で行う仕事として会社が援助する。専業で各国の委員と日常的な接触も保ちながら、如何に自国に有利なように規格を導くかが大事な仕事なのである。技術的な知識はもちろんのこと、交渉に十分な英語力、自国に有利な妥協点に近付ける「政治力」が求められる重要な仕事である。
-POINT-
1) 日本には外部雷対策製品の規格への適合審査を行う社会制度がない
2) 通常の古典的避雷針も、弊社の避雷球も、第三者認証は受けていない
3) 受雷部だけの検定では「避雷設備」の一部であり、避雷設備を構成する引き下げ導線、アースなど現場施工のモノと一体に適合審査することは困難であり、受雷部だけの審査だけでは意味がない
13.経済性
エジソンの白熱電灯の発明によるによる電気時代が到来する約130年も前に発明された避雷針。そして電気の発明からさらに140年近くが経過している現在は、過剰ともいる電気依存、都市の過密化などの背景を理解した上で、もし、日常生活に影響したらという観点で経済性を検証する。
(写真左:トーマス・エジソン(1847- 1931年) 写真右:避雷針を発明したベンジャミン・フランクリン(1706 - 1790年))
そもそも安全対策に経済性第一を持ち込むのは適切ではない。弊社製品の選定に際しても「コスパ、コスパ」と声高に叫ぶ方もおられるが、私の心の奥ではコスパ優先を唱える方にはお引き取りを願っている。弊社製品、それほど高価なものではないのである。会社の操業体制の価値が落雷対策の費用に及ばないなら、検討などするのも無駄であろうが、落雷対策の費用など会社の操業価値に比べれば微々たるものである。
JIS規格では損害の種類を次の4種類に分類している。
1) 生命に関する損失
古典的避雷針の発明された1750年台は、日本では徳川第9代将軍の頃であるから、他人の生命や権利には無関心な時代であったのは仕方ないが、今や人の命に関わる事は最大限の努力でこれを守らねばならないという意識は一般化し、例え、相手が自然現象であったとしても大きな言い訳にはならず、最大限の努力で人命に危害が及ばないようにすることは常識になりつつある。例えば、大規模な野外のイベントには落雷対策が準備されるようになり、ゴルフ場、サッカー場などの屋外施設への普及も進んでいる。
2) 公共サービスの損失
公共サービスと言えば、電気/ガス/水道であるが、これらの安定供給のためにも落雷対策は活躍している。通信/放送は、電力の他電波送信のための高い鉄塔を伴うことが多く、落雷対策は重要である。 交通についても特に大都市圏の交通網は、異常なく運航が継続されているので駅での乗客の滞留も発生しないで済んでいるが、これが停止したら大きな駅では電車に乗ろうとする人で溢れ、警察が出動しなければならないような大混乱をきたす。このため落雷対策は重要である。自衛隊/警察/海上保安庁/消防も独自の通信網を備え、それらの設備に対する落雷対策は重要である。
3) 歴史的建築物の損失
日本には多くの歴史的建築物が多いが、それらのほとんどは木造建築で昔の建物ゆえ、耐火性能は現代の建築物に劣り、個々で使用される木材は長年かけて乾燥されているいため、火災になれば火の回りも早いものと推測される。例えば、京都の東寺の五重塔であるが、天長3年(826年)に弘法大師空海が創建したと言われている。 創建塔は天喜3年(1055年)に落雷で焼失。その後、3度の焼失(合計4回)を経て現在は寛永21年(1644年)に徳川家光が寄進したとされている。落雷から守るためとはいえ、美しいたたずまいのその周囲に避雷鉄塔など立てるのは無粋であり、これをそのままの姿で落雷し難くできないかと考案した図を示す。
五重の塔には相輪と呼ばれる金属製の装飾があるが、これは多くの場合、避雷針として地面に接地されているが、これを直接地面につなぐのではなく、一度キャパシタを通じて接地する。これは一見、接地回路にキャパシタなど入れれば直流抵抗は無限大となり、そもそも接地として機能しないとの反対意見が巻き起こる事は十分承知であるが、もし、落雷しても、キャパシタの内部を絶縁破壊して接続状態になり、雷電流はヤスヤスと数化する。それより大事なのは、地面と逆極性の、すなわち、雷雲と同じ極性に大雄伝させて、落雷を招かないようにすることが重要なのである。これであれば、大きな場所も必要とせずに、費用も最小で歴史的建築物への落雷を抑制することが可能で、日本国内はもとより米国特許も取得している、
4) 経済的な損失
直撃雷を受ければ、少なからず損傷も発生する。その費用は火災保険でもカバーされるが、問題は、復旧に時間がかかる事である。産業機械の復旧には時間を要し、その間、操業が停止する損失の方がはるかに大きい。例えば、これも実例であるが、年間50億円を出荷するある会社が落雷のために2週間に渡って操業が停止した。修理費用は約5百万円を要したが損害保険でカバーできたが、2週間の操業停止は約2億円の損害となった。また、金銭的な損害取るも従業員に多大な負荷をかけた例としては、ある高齢者施設でエレベータ塔への落雷でエレベータが約2週間にわたって利用できなくなった。高さが20メートルの建物には避雷設備は必要とされないが、これは落雷がないことを保証したものではない。落雷が発生すればエレベータも空調も損傷を受け、1階の調理室で作った食事は各人毎のトレイに、そのトレイを大きな台車に乗せて複数人分を2階の居室に運んでいたが、1~2回の垂直移動ができなくなると一人分ずつ運ばねばならない。それでなくても人手不足の折、50人分を一人前毎に運び、その食器の後片付けもあると、一日3食で300回も階段を上り下りしなければならなくなった。たった1階と2階の垂直移動でさえこれだけ大きな負担となる。
避雷球(PDCE)を用いて、なるべく落雷を受け難くするのに擁する費用は、以上の損失から比べれば、それほど大きな負担にはならない。安全策を講じる費用は場、生産設備の改良と比べれば、後ろ向きではあリ。「コスパ」を持ち出したくなる気持ちは理解するが、そもそも、生産設備でのコスパと比べるべきものではない。
-POINT-
1) 落雷による被害があっても、金銭で償える損害だけであれば、保険もあるし問題の無いことが多い。しかし、生命に関すること、身体への障害が残ることなど,金銭だけでは解決し難い被害があることを忘れてはならない。
2) 設備の損傷は損害保険でカバーできることが多くても、設備が普及するまでの間で大きな負担が生じる。
14.保護範囲
PDCE避雷球にも色々なサイズの製品があり、大自然の前にたかだか数cm の違いなど保護範囲の大きな差を生じる事はないであろうとする見方もあるが、落雷を抑制する保護範囲という観点で全てが同じ性能ではなく、製品の構造や作りが異なり、製品価格も異なるように保護範囲も異なるが、自然環境の異なる状況の中で、保護範囲が理論的に計算できるものではなく、保護範囲の根拠としては、Magnumを用いて行われた実証試験での値を基準として推測するしかない。
Magnum 200台を用いた5年間の試験で設置場所から半径200m以内への落雷は認められなかった。これは気候風土も異なる外国での値なので、安全率を、見込んで半分の100mとしている。高さ20mの場所に取り付けると、ここを頂点とする半径100mの円錐形の範囲内を保護範囲として期待できる。
しかしながら、これはあくまでも実証試験の結果であり、常にその値が期待できるとは限らない。
また、建築基準法の規定に基づいて使用する場合には、受雷部として使用し、あくまでも建築基準法(回転球体法等)の規定が保護範囲になる。
建築基準法で避雷針の設置義務のない場所で使用する場合には、Magnumの取付位置の高さの5倍の半径を有する円錐内部を保護領域として期待することができる。ただし、例えば、東京タワーの上に付けたからと言って東京タワーを中心とする半径1.6kmまでは実績がなく、水平距離方向(半径)の最大は100mに限定している。
このMagnum の保護範囲を基準とし、電極の大きさ、フランス ポー大学での放電試験の結果などを鑑みて仮に決めたのは上記の図である。この数字はあくまで目安であり、今後、使用実績の増加と共にこの数字は改めることもあり得る。
-POINT-
1)基準法が優先し、これを越えての保護範囲は、法律的には意味がない(意味を持たせてはならない)。
あくまで、建築基準法の「受雷部」として扱う。
2) 建築基準法の適用外であれば、高さHに対して、半径5Hの円錐形内を保護域として想定することも可能。
15. 取り付け(設置方法)
PDCE避雷球を設置する場合、大きく分けて次の3通りの取付け方がある。
1)ビルの屋上、屋根の上などに通常の避雷針と同様に支持管の上に取付ける
2)独立避雷針として、コンクリート電柱や鉄塔の先に支持管を取付け、そこに取付ける
3)恒久施設でなく、イベント用に短期間の運用を目的とした可搬型も可能
どの場合にも、被保護物よりも、最低2m以上高い位置に取付ける。従来の避雷針に比べると水平投影面積が大きく、重量も大きいので取り付ける支持管もそれなりの強度が必要である。高所に取り付けるので、風圧計算を行い必要な支持管の強度を求める。これには、取付場所の「地表面粗度区分」「取付ける都市」「取付の高さ」なども要素になる。
支持管の端には直径で約10cmのフランジを溶接し、そのフランジにPDCEを乗せる。この部分の接触で接地と導通させるので、フランジの表面には塗装せずに、表面処理は溶融亜鉛メッキするかステンレス製の支持管を用いる。アースは、この支持管に接続する。支持管をコンクリート柱などに取り付けた独立避雷針の場合には、引下げ導線として用いるオニヨリ線と支持管を接続し、接地する。 接地抵抗は10オーム以下が望ましいが、JIS規格に応じた接地抵抗を用意する。
既存の避雷針との交換であるが、通常避雷針の先端部分(突針)に比べ、水平投影面積も大きく、重量も大きいため、そのままの交換ができるか否かは現状の突針の状況による。強度的には、日本中の殆どの場所で直径が76mm程度の支持管であればPDCEを支えることができるが、その場所の地表面粗度区分や取付位置の高さなどで風圧、強度計算を行って支持管、その他の強度を決定する。
避雷針の交換における手続きであるが、建物の新築、移築、増築、改築には届け出が必要であるが避雷針の交換に届け出は必要ないとのことを横浜市の建築指導課殿で確認している。危険物製造所に於いては、指定数量の10倍を超えている場合には避雷針の交換にも消防局への届け出が必要。建屋の上の避雷針でなく、独立避雷針として建てる場合には、建屋の周囲の空地の状況による(横浜市消防局)。
工事の流れ(一般的な例)
1. 施工業者による現地調査および設計
2. 施工業者にて取り付け部に合わせた形状で
支持管を製作
3. 旧避雷針を支持管ごとクレーンで吊上げて撤去
4. 支持管にPDCE避雷球を地上で取り付け
5. クレーン等で引き揚げ
6. ボルトで建物と締結
7. 引下げ導線へ端子で接続
先端の通常避雷針だけをPDCE避雷球に交換を予定していても、長い年月屋外で使用された(避雷針+支持管)を見ると、支持管の錆に驚き、やはり全体を交換しようという事になる場合が多い。最初から、支持管までの交換をお勧めしたい。
(写真:古い避雷針を取り外している例)
その他、移動可能な基盤の上に簡単に建柱できる機構を用意し、少人数で短時間に避雷設備の準備を御コンマ得る装置などもあり、特許出願を完了している。
16. 総合雷対策
弊社製品は、直撃雷を防止するための製品であるが、落雷の被害はこの他にも電線を伝わって来るものがあり、それについてはPDCEと並列的に使用することが必要である。これは、雷雲直下で電線に溜まってバランスしていた電荷が、雲中放電や雲間放電の結果無くなって電線上で流れ込む。電柱や送電塔などの垂直的な構造物への落雷が電線に乗って流れて来るものなどがある。それらに対しては、耐雷トランスや保安器などでの保護が必要になる。また、電源の保安用アースから避雷設備、情報ネットワークまで含めた接地システムも欧米では進んでいるが、日本では配電設備の中に専用アース線など含まない2線式の電線が用いられている場所が多いため、諸外国と整合の取れた統合接地システムを作ることは非常な困難を伴う。
-POINT-
1) PDCEは、電線、地面を伝わって来る雷電流を防ぐことはできない。これらの対策が別途、必要である場合にはPDCEにのみ頼らずに内部雷対策を施すことも必要
2) 共通接地、架空配線などは、いわば【下水】であり、PDCEは傘にたとえられる。傘をさして雨から濡れないようにしても、上流のドシャ降りで足元のマンホールから雨水が湧き出て濡れることがある。接地を共通にしている部分は全てPDCEの保護下に置くことが必要である
17. 適用事例
1) 茨城県牛久市の牛久大仏様
阿弥陀如来像の高さ120mは世界一のブロンズ像で、85mの高さは展望階で、胸・背中・両肩が東西南北の方向を向いて窓がある。落雷があっても雷電流は外側のブロンズを流れるため、中にいる参拝客は安全である。しかしながら、85mの高さに昇るエレベータの制御装置は、雷電流に影響されて機能停止になることが多い。すると、エレベータで降りて来られなくなる。館内の有線電話も壊れれば、携帯電話もブロンズでシールドされた内部からは通じない。そのような事態が発生しないようにとのリスク管理の観点でPDCEを取り付けられた。
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2)海上保安庁 灯台
日本海を望むこの灯台は、海面からの高度が120m、明かりを灯すだけでなく風向風速などの気象データの収集もしている。ところが、海岸の絶壁にそびえるこの灯台には冬場には落雷が多く、落雷すると気象情報の収集ができなくなる。深い積雪に覆われた登山道の様な道を120mも上がって修理することはほぼ不可能である。このため、この夏に、冬場の雷対策の試験目的でPDCEを取付けた。これで一冬の間、落雷が防止できれば、雷で不能になる灯台の気象情報の収集の安定化が見込まれる。
3)地球深部探査船「ちきゅう」
深さ2,700mもの海底でボーリングを行い、その深さは海底から1万mに及ぶ。ボーリングしている間、海底と海上の「ちきゅう」の間のパイプを海流に流されることなく支え、常に、海底の掘削地点の真上に位置できるように電気駆動の大型モータがポッドの中に入り、どの方向にもプロペラを向けることができるので海流に逆らってどの場所にも留まることが可能である。その海底でのボーリングの期間中に、海上では雷雨が通り過ぎることもあり得る。海面から120mもの高さに突き出した塔【デリック】には落雷もある。漁船やヨットと異なり、鉄鋼船では雷電流に大きな抵抗を生じないので、木造船、FRP船よりは被害が少ないが流れる雷電流で船内の科学測定用の機器、航海用の機器などに被害が出ることもある。また、将来、メタンハイドレードの様な可燃物を扱う場合には危険も伴う。そこで、デリックの一番上にPDCEが取り付けられた。
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