[Vol.5 科学調査]国立研究開発法人海洋研究開発機構 ”JAMSTEC”研究プラットフォーム運用部門 様

「本船は日常の一般的な自然災害対策として、最新の気象情報を常に収集・分析をすることで早期に対応策を講じています」

国立研究開発法人海洋研究開発機構
研究プラットフォーム運用部門 様

大海原を進む地球深部探査船「ちきゅう」 

【導入製品:PDCE-Senior】 

[ちきゅう] JAMSTEC海洋研究開発機構の地球深部探査船「ちきゅう」は、深海底を掘削することにより、地球環境変動、地球内部構造、地殻内生命圏等の解明を目的とした研究のためのサンプル採取を行っている。全長210m 57,000トンの大型船で、海面からの高さ120m のボーリング用のデリック(やぐら)を備える。2024年9月より東北地方太平洋沖地震の震源域での2度目となる国際科学掘削調査を実施している。
https://www.jamstec.go.jp/chikyu/j/

弊社PDCEの設置第2号は、地球深部探査船「ちきゅう」です。2005年に竣工し、大海原で海面から120mもの高さのデリックを備え洋上にとどまりながら掘削作業をする「ちきゅう」は落雷の大きな標的になっていました。「ちきゅう」は作業中であれば、本船から2,000m以上の深い海底へ、そして海底から最大で7,000mの深さまでボーリング用のパイプでつながれ、逃げることはできません。多くの精密機器を搭載しており、落雷により船体を雷電流が船体を流れると悪影響を受けます。

2011年にデリックの最上部にPDCEが取り付けられて13年。現ご担当者に伺いました。

「ちきゅう」の自然災害対策について
 本船は日常の一般的な自然災害対策として、最新の気象情報を常に収集・分析をすることで早期に対応策を講じています。敢えてその中から取り上げるのであれば、津波対策と考えています。2011年のPDCE導入に際し、弊機構の中では特に大きな反対は無かったのですが、「本当に効果があるのか?」という懸念の声もありました。しかし、当時の担当が必要性を感じ、所内外の調整を進め導入に至りました。

デリックを甲板から見上げる
デリック最上部のPDCE被雷球
(撮影2024.08.09)
ライザーパイプ周辺の作業

PDCE避雷球設置後の落雷被害
 設置後の落雷事故はありました(※ 後半に考察)。被雷のデータはありませんが、PDCEの設置後、減少した印象はあります。

落雷抑制システムズに対する期待
 弊機構の船舶運航について、安全であることが最重要と考えています。今後も「落雷を抑制する技術」の最新情報をお願いします。

落雷を避け掘削作業を行う「ちきゅう」

(画像提供:JAMSTEC様 / 取材日:2024.08.09)

( 考 察 )PDCE設置後の落雷被害について  -2012.7.2

1.事故の情報および状況

2012年6月18日13時50分、台風4号が九州に接近する中、佐世保沖に停泊中の「ちきゅう」が雷により、デリックトップのGPSアンテナが不良になったとの情報あり、閃光を数名の方が確認したとのことでした。

6月23日の現地調査で、

  1. 下部からのPDCEの目視では、異常および落雷痕(・・・)の確認はできなかった。
  2. GPSアンテナは交換済みで、事故品はメーカーでの確認では外部に放電痕は確認できなった。
  3. GPSアンテナの上方部には棒状の風速計が設置されているが、放電痕は確認できなかった。
  4. GPSアンテナの伝送線が約70mデリックに沿って設置されており、落雷電流は伝送線を通り受信機のサージアブソーバで止まった。

 フランクリン・ジャパン提供の落雷データによれば、同日13時50分、ちきゅう停泊海域(北緯:33°6′0″,東経129°42′0″)の約2km四方で、ほぼ同時に4回の落雷が観測されていました。

2.原因と分析

 上記の情報より、GPSアンテナの故障は【誘導雷】によるものと判断いたしました。PDCEの放電痕が確認できない現時点では、残念ながら落雷の詳細状況は不明ですが、GPSアンテナ自体ではなく、デリックに発生した誘導電流によると考えるのが妥当と判断いたします。

 デリックに誘導された電流は、デリックを通過して海中に放出します(逆方向もあり)が、その誘導電流はGPSアンテナと受信機の両側に流れ、GPSアンテナを破壊したものと判断いたします。

 今回の落雷は4箇所とも約2km四方のほぼ同時刻で発生しているため、非常に大きな電荷を持った雷雲によるものと判断いたします。

【誘導雷】雷の電流が電源線などの回線から侵入したもの
【直撃雷】直接対象物に命中する雷のこと

私ども、株式会社落雷抑制システムズはこれからも直撃雷対策という難問題にチャレンジして参りますので、今後ともご指導のほどよろしくお願い申し上げます。

以上

なお、本PDCEは前記程度の放電ではまったく性能の変化は考えられないため、交換等をせず
2024年10月現在まで使用を続けていただいております。