避雷針の始まりは1700年代半ば
避雷針は、1752年、アメリカのフランクリン・ベンジャミンによって発明されました。フランクリンによって行われた、凧に雷を落とす実験はご存じの方も多いのではないでしょうか。(フランクリン氏に敬意を払い、彼の生い立ちについて解説します)
この当時、夜間の灯はオイルランプが用いられ、まだ、石油が開発される前の事ですから、そのオイルはクジラの油、鯨油が用いられていました。この歴史は100年以上続き、1853年になると日本に黒船が来航しますが、これの鯨油を取るための捕鯨基地として日本の港で真水と食料の補給をするのが目的で、日本に開港を要求してきたのでした。日本では行灯の明かりは菜種油を用いていました。
1800年台になるとエジソンが電球を発明し、灯りもオイルランプから電球の時代へと変わります。1900年台になるとライト兄弟による飛行機、T型フォードによる自動車の量産などが始まり、現在の生活様式が始まります。
そして現在、社会生活の安定は、電子/電気機器に支えられ、電気なしでは成り立たないほど、現在の日常生活は電気に支えられています。避雷針の目的は、建物を火災から守るという事は変わらないのですが、電気/電子機器をいかに雷から守るかという新たな課題が生まれました。

[雷豆知識]避雷針が発明された当時、傘の先端に避雷針を取付け、アース線を引きずりながら歩くのが最先端のファッションであったそうです。今から見ると馬鹿げているようですが、この避雷針、当時から姿を変えることなく身の回りにも多数残っています。
避雷針の原理
フランクリンの考えた避雷針と現在使用されている避雷針に避雷針には、少しの違いがあります。フランクリンの考案した避雷針はガラス瓶を四隅に置いた板の上に金属棒を建てるもので、地面とは電気的に絶縁されています。そこにアースされたライデン瓶を接触させてライデン瓶の中での放電を確認しました。現在使用されている避雷針は、アースに接続された金属棒で、この先端からお迎え放電を放出し、落雲底部から地面に接近してきた前駆放電と引き合って、雷雲底部と金属棒の間で放電経路を作り、落雷電流を安全に大地に放流する事を期待したものです。
「避雷針」とは雷を避ける針と書きますが、正確には雷が落ちるときに、避雷針に落ちるようにしているので、その周りの被害が減る、ということになります。
なぜ、雷は避雷針に落ちるのでしょうか。それは、避雷針が「針」であることに理由があります。

針のような尖ったものは、放電しやすい性質があります。つまり避雷針の尖った先からは、電気が放電しやすいということです。雷雲の下側(地表側)はマイナス(-)に電荷を帯びている一方、避雷針の先端はプラス(+)の電荷を帯びています。雷が落ちるときには、より引き付けられやすい避雷針めがけて落ちていくという仕組みになっています。
針の先、避雷針の先から放出されるものを「お迎え放電」と呼んでおり、「お迎え放電」があるからこそ、落雷がそこに誘導されるのです。
落雷はギザギザで上空から降りてきますが、何故、ギザギザなのでしょうか。雷雲から出る放電は、一回当たり約100m程度の到達距離となっています。100mを伝わると電荷が無くなり、また、雷雲から補給されて、次の地点にジャンプすることを繰り返しながら降りてきます。
では、避雷針の先端を1ミリ・メートル角として、100m先から雷が命中するでしょうか?標的の大きさと距離の比で言うと 1mm : 100m( 100 x 1000mm ) で1:100,000になります。例えば、ゴルゴ13は遠くの標的を狙うのが得意な狙撃手です。2km先の20cmの的に命中させることができるそうで、標的と距離の比は 20cm : 2000 x 100cm で 1: 1,000ということになります。
そう考えると、落雷という自然現象が人間よりも100倍も良い精度であろうはずがありません。避雷針に命中するには、落雷が一方的に避雷針落ちる、というわけではなく、避雷針の先から「お迎え放電」が上昇し、これが上空から降りてくる「先行放電」と3次元の空間で引きあって結ばれ、放電路が形成されるので、次に大きな電荷が上空から流れ落ちて来る。こうして雷は避雷針に落ちる、反対に言うと避雷針は雷を受けることができているのです。
避雷針はどこまで守ることができるのか?
先端が尖っている従来の避雷針はどこまで安全に雷から守ってくれるのでしょうか?残念ながら、現代では完全に安全な設備とは言えないようです。避雷針がある周辺は、落雷を避雷針が受けてくれるので大丈夫、と考えたいですが、雷は放電しやすい場所に落ちてくるので、100%避雷針が受けてくれるとは言えません。
一般に高いところに落ちる、など言われていますが、その時々の状況により、低い場所に落ちることもあります。落雷が落ちて来る先端に、地上の高さを判別できる機能など無いと考える方が合理的です。完全に雷を避雷針に誘導することができないのが実際のところです。
うまく避雷針で雷を受けることができても問題が残ります。避雷針が発明された1700年代は、現代のような電子機器などはありませんでした。この時代はまだ、オイルランプの時代で、電気が使われる130年も前の話です。避雷針は建物を落雷から保護するためのもので電気製品にとって雷電流は強力過ぎるのです。避雷針はアースされ、地面の奥深くまで導線で繋がっているのですが、雷雨の時には地面が冠水するくらい濡れていて、必ずしも地中深くには流れず、地表を伝わる事も多いのです。
また、現代の建物の中では情報ネットワークが用いられる情報用ケーブルが電力ケーブルの長さ以上に用いられ、避雷針に落雷した雷に誘導されて発生した電圧が情報ネットワークに損害を与えることが多くなっています。オイルランプの時代には、建物を保護するだけで良かったのですが、ICT時代においては避雷針で落雷を誘導することは大きな副作用を伴います。建物と同時に建物内のネットワークも保護するには落雷を誘導しないことが一番です。現代のネットワーク、PC、その他の電気製品にとって有効とは言い難いのが実情です。
落雷は道路が冠水するような雨と共に発生しますから、避雷針に落ちた電流は、いくらアース工事をきちんとしていても、地表で拡散し地表に置いてある電気機器に侵入、損害を与えたりします。さらには電気配線に流れ込み、屋内の機器にまで損傷を与えることがあります。これを防ぐには、避雷針自体を高絶縁性の碍子の上に設置し雷電流も流せる特殊なケーブルで地中深く100m付近までボリーングをして地中深くに雷電流を導く「深埋接地」が必要になります。なので、従来のフランクリン型避雷針に変わる新しい雷対策が必要となっているのです。
この文書のタイトルに「避雷針」としながら矛盾するようですが、法律的には避雷設備の中の受雷部というのが本名で、規格の立場で言えば避雷針は死語であり、世の中で広く認知されているものの法律的には存在しません。
避雷針という名称とその実態は大きくかけ離れていて、その実態は「雷」を「避ける」「針」ではなく、「雷」を「被る」「針」で「被雷針」と書くのが意味からは正しく、これは雷をそこに誘導するものなのです。発明されたのはエジソンの生まれる100年近く前ですから、まだ電気は実用化されず、落雷がいくらあっても当然、電気製品への影響などありませんでした。英語では単に、Lightning rod.あるいは発明したベンジャミン・フランクリンの名前からFranklin rod, 規格では Air Termination System と呼ばれるだけです。日本語にすると意味的にはかなり「盛った」名称で、原文には「避雷」という機能についての概念や「突針」などという形状についての概念もありません。原文に無い概念を日本語訳に持ち込んだ場合、それは「誤訳」とよばれますが、誤訳のまま広まってしまったのがこの避雷針という言葉です。
[雷豆知識]
「避雷針」ではなく、「被雷針」?
この文書のタイトルに「避雷針」としながら矛盾するようですが、法律的には避雷設備の中の受雷部というのが本名でして、規格の立場で言えば避雷針は死語であり、世の中で広く認知されているものの法律的には存在しません。
避雷針という名称とその実態は大きくかけ離れていて、その実態は「雷」を「避ける」「針」ではなく、「雷」を「被る」「針」で「被雷針」と書くのが漢字の意味からは正しく、これは雷をそこに誘導するものなのです。発明されたのは約270年前でエジソンの生まれる100年近く前ですから、まだ電気は実用化されず、落雷がいくらあっても当然、電気製品への影響などありませんでした。英語では単に、Lightning rod.あるいは発明したベンジャミン・フランクリンの名前からFranklin rod, 規格では Air Termination System と呼ばれるだけです。日本語にすると意味的にはかなり「盛った」名称で、原文には「避雷」という機能についての概念や「突針」などという形状についての概念もありません。原文に無い概念を日本語訳に持ち込んだ場合、それは「誤訳」とよばれますが、誤訳のまま広まってしまったのがこの避雷針という言葉です。
「雷を落とさない」受雷部(避雷針)の進化
近年、従来の避雷針のような方法で落雷など呼び込まない方が良い、あるいは呼び込んだら危険であるという認識が広まってきました。例えば、水素ガスなどの可燃性ガスを扱う事業所では、ワザワザ、トラブルの種になる雷電流など呼び込むことはありませんし、監視カメラ、その他、電気設備を用いて観測をする施設などでも観測機器に悪影響を及ぼしかねない雷電流など呼び込まない方が良いのです。今や電気を用いない建物はなく、落雷を受ければビルの入退出管理、ビルの空調など、館内放送、火災報知器など建物自体が機能しなくなる恐れがあり、避雷針自体の在り方を見直す必要があります。
落雷を積極的に受けるタイプとしては、1752年に発明されたフランクリン型を第一世代とすると、その後、第二世代として地面の電荷を面積の広い球体に集めて、お迎え放電を出しやすくしたESE(Eary Streamer Emission:お迎え放電早期発信型)が登場しました。日本では、ほとんどが第一世代のフランクリン型避雷針が多く、なかなか避雷針自体の進化は見られない状況です。
落雷をなるべく招かないタイプの第一世代は、PDCE-Seniorというもので2005年に発表されました。その後、改良が続き第二世代では同じ形のままステンレス製となり、第三世代では球形に進化し、第四世代では風力発電のブレードに置取付ける翼端型へと進化しています。
第一世代 | 第二世代 | 第三世代 | 第四世代 | 第五世代 |
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アルミニウム製 | SUS-316L製 | SUS-316L製 | SUS-316L製 | |
避雷突針 その歴史ゆえ世界中で最も普及 | Senior | Magnum Junior HT300(煙突用) HT500(煙突用) Junior (SUS304) Baby ( SUS304) 2020 (SUS304) スーパー316 | 避雷球(大) 避雷球(小) 日本/米国/中国 欧州での特許 | 風力発電 ブレード用 高層ビル 側撃雷対策用 垂直型 |
他社製品 | 類似他社製品あり | 類似他社製品あり | 世界初の製品 | 世界初の製品 |
フランス規格 NF C-17による Pau大学での放電試験での放電電圧 500kV*1 | 650kV | 650kV | 750kV *2でも放電せず | 750kVでも放電せず 側撃雷用 |
*2 試験機の最高出力